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既に振るわれし刃 『いつだったかな……昔、ずいぶん昔、同じようなことが、あったような気が……』 「……さよちゃん?!」 月曜日の朝。 学園に呪縛された地縛霊・さよは、その身を震わせる。 相次いでクラスメイトに降りかかる事件。傷ついていく身体と才能―― さよは、額に手を当てる。その顔が、僅かに歪む。 『頭が、痛い……』 「はあッ!? ちょっ、さよちゃん、頭が痛いって……!?」 さよの漏らした呻き声に、和美は思わず聞き返す。 幽霊のさよが、痛みを訴える? そんなことが、果たしてあるのだろうか? クラスで唯一さよと常時コンタクトの取れる和美でも、さよが「頭痛に苦しむ」姿など初めて見る。 さよの輪郭が、わずかにブレる。襲い来る激しい頭痛に、とうとう両手で頭を抱え込む。 思い出してはいけない。思い出してはいけない。思い出しては、いけない。 さよの心の中で、何かが叫ぶ。 得体の知れない恐怖を覚えながら、しかしさよには、記憶が溢れ出るのを止められない―― ……相坂さよは、何十年もその席に座っていた。 新たなクラスメイトが入学し、成長し、卒業していくのを、何度も何度も繰り返し見守ってきた。 幽霊である彼女は、全ての人に見えるわけでもない。全ての人に声が届くわけでもない。 それでも、30人も生徒が居れば、霊感の強い少女の1人や2人はまず居るものである。 どの時代においても、彼女は誰かしら「友達」を見つけ、そして仲良く学園生活を送ってきた。 当初の相坂さよは、決して「誰にも見えない幽霊」などではなかったのだ。 ――そんな彼女の目の前で、ある年、事件が起こる。 麻帆良学園は、実は不思議なほどに事件がない。 これだけの巨大学園だ、普通ならばある程度の事件・事故は起こって当然。 ケンカやイジメ、そこから発展する陰惨な事件や自殺なども、普通にあってしかるべきだ。 けれども――不思議と、麻帆良にはそれらがない。 学園祭で、その規模とバカ騒ぎの割に深刻なケガ人や死者が決して出ないように。 麻帆良学園はその日常においても、深刻なケガ人や死者は、ほとんど出ないのだ。 出ない、のだが…… その年には、その年に限って、実に不可解な、そして明らかに悪意に満ちた事件が起きていた。 女子生徒が、日の暮れた学園内で襲われる事件が頻発したのである。 金や持ち物が奪われることはなかったし、性的な暴行も受けていない。 犯人の動機は、さっぱり分からない。まるで生徒を襲い、ケガを負わせること自体が目的のような。 そして、狙われたのは何故か決まって麻帆良学園女子中等部の生徒だけ―― なお、この年の事件においては、別に特定のクラスが狙い打ちされるようなことはなかったのだが。 それでも、相坂さよが憑いている3-Aのクラスでも、被害者は続々と出ていた。 まるで生徒の特技を狙い撃ちしたような、悪質な被害が相次いでいた。 例えば―― 油絵で数々の賞を取っていた絵描きの少女は、両目を潰された無残な姿で発見された。 演劇部をいくつも掛け持ちし常に主役を張っていた花形女優は、その顔を切り刻まれた。 天才と呼ばれたピアニストの少女は、その10本の指を全て切り落とされていた。 「遠当て」の秘技を使いこなす空手家少女は、返り討ちにあい両手両足をへし折られた。 学園でも有名な歌手だった女の子は、首を絞められ喉を潰され、その美声を奪われた。 ソフトボール部期待のエースは、ピッチャーの命である右腕を、折られ捻られ徹底的に破壊された。 さらにはこれと同時期に、急に行方不明となり、説明もなく姿を消した生徒が2名。急な転校が1名。 クラスの雰囲気は、一気に沈鬱なものとなっていた。 『私が犯人を捜してきましょうか……? 私が犯人を見て、皆さんが先生とかに伝えれば』 さよがそう言ったのは、自分にも何かできることがないかと思ったから。 その年、クラスに2人居た霊感少女たちは、しかしそんなさよを引き止めた。 それはちょっと危ないよ、と。もし襲われても、さよちゃんじゃ助けも求められないじゃん、と。 親友たちの気遣いに、しかしさよは笑った。 『でも、私もう死んでますから。そもそも触られることもないですし、私の姿も見えないかと……』 その日は、満月の夜だった。 親友たちには笑って答えた彼女だったが、夜の闇を1人で歩くのはやっぱり怖い。 ビクビク震えながら、彼女はそれでも勇気を振り絞って夜の道を歩く。 たまに暗がりで足元がよく見えなくて、すっ転んだりもしたりしたが。 相坂さよは、事件の犯人と遭遇できることを期待して、学園の中を歩き回る。 そんなさよの耳に――ふと、悲鳴が聞こえた気がした。 誰かが助けを求める声が、聞こえたような気がした。 さよは走る。さよは飛ぶ。木々の間を抜け、犯人を、犠牲者を見極めんと―― そして、彼女はたどり着く。そして、彼女は見てしまう。 月に照らされた、丘の上の噴水公園。不思議なほどに人の気配がない広場。 そこに力なく横たわる、血まみれの少女の姿。赤く染まった、麻帆良学園中等部の制服。 そしてその少女の背の上、巨大なナイフを担いだ、歪な体型の小さな影―― 思わず息を飲んださよの方を、その小さな影はゆっくりと振り向き、そして笑う。 ガラス玉のような2つの眼球が、霊能力者にしか見えぬはずのさよの姿を、しっかりと捉える。 「……ケケケッ。今夜ハ大漁ダナァ。飛ンデ火ニ入ル夏ノ幽霊、ッテカ? キャハハッ!!」 15年前の、ある満月の夜のことだった。 13th TARGET → 出席番号01番 相坂さよ ページをめくる
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原作者です。 思う所があり、削除させていただきます。
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532 :??な俺[]:2011/01/28(金) 22 09 37.43 ID bL+n1hFc0 1944某日ロマーニャ上空 副操縦士「あの…機長…」 輸送機の操縦席の右側に陣取る副操縦士が機長におそるおそる尋ね、機長は少し不機嫌そうに答える 機長「あぁ?何だぁ?」 副操縦士は後ろを少し振り返りながら口を開く 副操縦士「彼、もう出発してから四時間近くアレですよ…」 機長「俺もさっきからそれを思ってたんだ。アイツ大丈夫か?」 副操縦士「あんなのが501統合戦闘航空団への要人なんて世も末ですね。同じ扶桑海軍軍人として恥ずかしいです。」 そんな彼らの視線の先では… 533 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[]:2011/01/28(金) 22 12 16.55 ID RBCHuj4yP (クマ吉的な意味で)紳士な予感 534 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage]:2011/01/28(金) 22 16 48.83 ID Zj2sr2GV0 新作期待 535 :妹狂いな俺[]:2011/01/28(金) 22 17 02.46 ID bL+n1hFc0 白装束を思わせる真っ白な詰襟と制帽をビシッと着こなした17歳位の少年が手に写真を握り何やら怪しいことを叫んでいるのである。離陸してから四時間近くずっと…。 俺「/`ァ /ヽァ /ゝァ / \ァ妹――――!お兄ちゃん今ロマーニャに向かっているんだよーーー!!/`ァ /ヽァ /ゝァ / \ァ可愛いよ妹――――!!」 機長「あいつ、俺たちのことにまったく気づいてないようだな。このままだったら俺の愛機の中で[自主規制]しそうな勢いだぞオイ。そうだ!少し脅かしてこい。ちょうどもう少しで目的地だからな。」 副操縦士が嫌々座席から立ち上がり機の後方に向けて一歩踏み出そうとした瞬間… 手に取っていた写真を一瞬でカバンの中にしまいこみ何事も無かったかのように澄ました顔を副操縦士に向けた。 俺「どうした?何かあったのか?」 機長、副操縦士「……イエ、ナニモ」 536 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[]:2011/01/28(金) 22 18 06.66 ID RBCHuj4yP 案の定だよwwwwww 537 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage]:2011/01/28(金) 22 18 13.39 ID e77MR31A0 これはお姉ちゃんルートの予感 538 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage]:2011/01/28(金) 22 19 28.22 ID cSpSSPIY0 直球勝負でリーネかな?と予想支援 539 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage]:2011/01/28(金) 22 19 32.58 ID zZbQck1D0 ___l___ /、`二//-‐''"´ l| l l! ';!u ';/ l ', '; l '; i ノ l Jヽ レ/ / / イ \/l l l l u !. l / '; l ', '; l. '; l ノヌ レ / l l lヽ|l l l し !/ '; l,、-‐、 l '; l / ヽ、_ / l l l l\l ヽ-' / ';!-ー 、'; ト、'; l ム ヒ / l/l lニ‐-、`` / /;;;;;;;;;;;;;ヽ! i l 月 ヒ /i / l l;;;;;ヽ \ i;;;;;;;;;;;;;;;;;;;l l l ノ l ヽヽノ / l/ l /;;l !;;;;;;;;;', ';;;;;;;;;;;;;;;;;ノ l l  ̄ ̄ / ;ィ l. l;;;;!;;;;;;;;;;;l `‐--‐'´..... !l __|_ ヽヽ /イ//l l ヽ、;;;;;;;ノ.... し ヽ /!リ l | ー / l';! u ', i ノ l | ヽー /イ'; l ’ し u. i l l | /'; '; !,.イ し 入 l l U | /,、-'´/ し / ヽ、 u し ,' ,' l | /l し _,.ノ `フ" ,' ,' ,ィ / | / ヽ ヽ / し ,' ,' / l | / `‐、 し ', / u ,、-'´ l,、- | ``‐-、._ ` ‐ 、 ',/ , -'´`'´ ,-'´ | _,、-‐'"´'; イ l'; ` ‐ 、._____,、-‐'"´ u / | | | | \ l / l /リ '; lリ l'; l l l l\ u / | | | | } 540 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage]:2011/01/28(金) 22 20 15.23 ID EZouV25f0 あえてもっさんルートと大穴予想 541 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage]:2011/01/28(金) 22 23 44.84 ID Zj2sr2GV0 こいつぁくせー!変態の臭いがプンプンしやがるぜーッ! 542 :支援ありがとうございます! 妹狂いな俺[]:2011/01/28(金) 22 24 35.58 ID bL+n1hFc0 一時間後501統合戦闘航空団ブリーフィングルーム ミーナ「みんな揃っているわね?では本日からこの基地に着任することになった新しい仲間を紹介します」 宮藤「どんな人なんだろう?」 リーネ「優しい人だったらいいね」 ルッキーニ「おっぱい大きかったらいいなー!」 サーニャ「zzz……」 バルクホルン(可愛い娘だったらいいな……) ハルトマン(トゥルーデまた変なことを……) ミーナ「では、入って下さい」 543 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage]:2011/01/28(金) 22 28 15.64 ID 4sEzQn4n0 どこにレスがしたいのか全く分からない…… 544 : 534ありがとうございます! 妹狂いな俺[]:2011/01/28(金) 22 30 45.20 ID bL+n1hFc0 俺「失礼します!本日付で501統合戦闘航空団に配属されることになりました、扶桑海軍俺飛曹長です!!年齢は17です!呼ぶときはそのまま俺でかまいません」 そう大きな声で言いビシッ!と敬礼をする 宮藤「かっこい~」(おっぱいもめない、だと?) リーネ「本当にかっこいいね芳佳ちゃん」 シャーリー「男のウィッチか~珍しいな~」 ルッキーニ「おっぱいもめなーい!!」 バルクホルン「チッ」 ハルトマン(もうトゥルーデったら…) エイラ「サーニャに手を出したらただじゃすまさないんだからナ!」 サーニャ「zzz…」 ミーナ「それではみなさん解散してください」 解散になってすぐに俺は坂本少佐のもとに行く 545 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage]:2011/01/28(金) 22 33 27.73 ID zZbQck1D0 流石、淫獣は歪みねぇ! 546 :妹狂いな俺[]:2011/01/28(金) 22 35 39.77 ID bL+n1hFc0 俺「坂本少佐!リバウで俺の姉御がお世話になりました!」 坂本「?」 俺「あ、西沢飛曹長は俺のいとこなんです」 一同「エェェェェーーーー!」 皆が驚くのも当然である。坂本、竹井、西沢といば「リバウの三羽烏」として世界的に有名なのだから 坂本「ハッハッハ!親族ぐるみで軍に志願か!いいことだ!ハッハッハ!」 俺のまわりに自然と輪が出来て皆から質問攻めになる。 バルクホルン「撃墜数は?固有魔法は?」 シャーリー「俺のストライカーは何なんだ?扶桑だから震電か?」 宮藤「スリーサイズは?」(男の人でも胸は胸だ!) 一気に質問され困ってしまう俺。そんな俺にミーナが助け舟を出す 548 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage]:2011/01/28(金) 22 36 30.96 ID e77MR31A0 魔王のいとこだと・・・ 549 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage]:2011/01/28(金) 22 36 44.42 ID Zj2sr2GV0 宮藤いい加減にしろwww 550 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage]:2011/01/28(金) 22 37 27.56 ID zZbQck1D0 芳佳ェ・・・支援 551 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage]:2011/01/28(金) 22 38 07.62 ID bac0WhMO0 陰獣ェ・・・ 552 : 550支援ありがとうございます!妹狂いな俺[]:2011/01/28(金) 22 42 28.53 ID bL+n1hFc0 一気に質問され困ってしまう俺。そんな俺にミーナが助け舟を出す。 ミーナ「今日はもう遅いし、俺飛曹長はお疲れのようだから質問は明日ね。部屋へはトゥルーデ、案内してくれる?あと宮藤さんは私の部屋に来なさい」ニコッ! 俺(ミーナさん怖っ!) トゥルーデ「了解」 宮藤「ガクガクブルブルガクガクブルブル」 廊下― カツカツカツ バルクホルン「ここが俺飛曹長の部屋だ。自由に使っていい。あと風呂は悪いが時間制だ。時間は追って知らせる」 俺「ありがとうございます。あと普通に俺と読んでください。」 バルクホルン「そうか。でさっき聞きそびれたが撃墜数はいくらなんだ?」 俺「えーと、確か87機位だと思います。固有魔法の関係で大型を相手することが多いのと、実際に戦場にいた期間がそこまで長くないからあまり多く無いです。固有魔法は威力増大です。」 バルクホルン「威力増大?」 553 :妹狂いな俺[]:2011/01/28(金) 22 48 41.95 ID bL+n1hFc0 俺「文字通り弾の威力を増大させます。明日か明後日にストライカーと銃が届くのでそのとき軽く実演してみましょう。」 バルクホルン「楽しみだな。ではお休み」 俺「おやすみなさい」 ガチャ、バタン 俺・バルクホルン(なぜだろう、バルクホルン大尉(俺飛曹長)は自分と同じ匂いがする) ガサガサ 俺「ハァハァ、お兄ちゃん新しい基地でも頑張るよ、/`ァ /ヽァ /ゝァ / \ァ妹――――!」 俺の部屋の前 ミーナ「聞いちゃった……」ハァ 妹狂いな俺第二話へ続く
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見習い魔法使いの憂鬱 麻帆良学園に、雨が降る。連日の惨劇を洗い流すように、雨が降る。 朝から降り続ける雨の中、あえて出歩く者はほとんど居なかったが…… ここ、麻帆良学園の中心部、世界樹前広場には、何本もの傘が留まっていた。 「まだ同一犯だと決まったわけでは……! 全ての事件において手口が違うわけですし」 「しかし我々の目を欺けるような犯罪者が複数いるということの方が、信じがたい」 「犯人の数などどうでもいい! 重要なのは、生徒たちの安全確保です!」 降り続ける雨の中、傘を片手に議論を交わしていたのは、十数人の先生や生徒。 学園都市に点在する、様々な学校の制服。様々な先生。一見すると何の共通項もない顔ぶれ。 ただし、知る者が見れば分かる。個々の顔を確認していけば、おのずと分かる。 愛衣がいる。シャークティがいる。刹那がいる。高音がいる。そして、子供先生のネギもいる。 魔法の存在を知り魔法を使いこなし、学園を陰から守る存在。魔法先生と魔法生徒たちだ。 彼らの雨の中の会合の議題は、もちろんここ数日起こっている例の事件。 「……犯人が魔法に関わる存在か否か、という点の方が重要かと」 「うん、確かに。それによって我々の取るべき方策がまるで変わってくるんだよね」 刀子が口にした新たな疑問に、弐集院は腕を組んで頷く。 今のところ、相手が「単なる変質者」なのか、それとも「魔法的な存在」なのか判断つかない。 前者なら、いかに抜け目のない犯罪者でも魔法的な防護はない。見つけさえすれば後は簡単。 しかし後者なら、これは用心して掛からなければ。今まで出し抜かれてきたのも納得である。 この新たな疑問に対し、しかし刹那は不思議そうに問い返す。 「しかしその件は、エヴァンジェリンさんの『結界』に反応なし、で決着していたのでは?」 魔力こそ極端に抑えられているエヴァだが、その魔法の技術はなおも超一級。 その技を活かし、エヴァは学園を取り巻く形で魔法的な警報装置・「結界」を展開していた。 魔法的な存在、例えば妖精や魔物が侵入すれば、エヴァはそれを察知することができる。 エヴァが「侵入者なし」と報告している以上、そこは疑う余地がないはずであったが……。 「いや、その判断は早計だな。『闇の福音』の報告があっても、まだ可能性はいくつか残る」 「可能性、ですか?」 刹那の問いに答えたのは、魔法先生の1人、ガンドルフィーニ。 「まずは、魔法的な欺瞞技術が使われていた場合。この手の感知魔法には、対策もある。 エヴァンジェリンの技量次第では、偽装を施した侵入者を感知しそこなう可能性がある」 「…………」 ガンドルフィーニの、あまりにエヴァの能力を軽視した発言。刹那もネギも黙って睨む。 「次に、犯人がここ数日は『結界』を通過していない場合。通過しなければ、感知もできない。 既に何らかの形で学園に潜伏していたり、学園内で召喚されたりしたケースが考えられる」 ある意味で真相を言い当てていたこの言葉。しかし現時点では決め手に欠ける。 「最後に――『闇の福音』が虚偽の報告をしていた場合。 なにしろ賞金は取り消されたとはいえ、あまたの犯罪に手を染めてきた前科者だ。 再び悪の道に手を出す、あるいは悪しき存在に手を貸す可能性は、十分に考えられる」 「ガンドルフィーニ先生ッ!」 色眼鏡でモノを言うガンドルフィーニに、とうとうネギが声を上げる。刹那も顔を強張らせる。 2人の知るエヴァは、そんな人物ではない。が、魔法先生たちの態度は硬いままで。 「あくまで可能性だよ、ネギ君。我々は全ての可能性を考えに入れねばならないんだ」 「信じたくない、あるいは、望ましい展開ではない、というのは我々にとっても同じだがね」 「…………!」 敵意剥きだしの魔法先生たちに、ネギと刹那は怒りを隠しきれない。 現在タカミチは海外に出張中。学園長は歳のせいか体調を崩し、ここ数日姿を見せていない。 そしてこの2人を除けば、ほとんどの魔法先生はエヴァのことをあまり信用しておらず。 ……まあ、これには不信のみならず、嫉妬のような感情も混じっているのかもしれない。 学園内の他の誰にも、エヴァのように大規模な「結界」を作る能力など無いのだから。 学園を守る気のない「悪の魔法使い」に、学園の監視を委ねなければならぬ自分だちの無力さ。 彼らの苛立ちは、心の奥底でくすぶり続けているのだった。 「……まあ、今の段階では、これ以上議論しても得るものはないようだ。 今日のところは巡回を強化するということで、新しいローテーションを決めて解散としようか」 雨の中、「教授」と呼ばれる魔法先生が、まとまらない議論をまとめようとする。 穏やかな微笑を崩さぬ若き教授、しかしその顔に翳りが見えるのは、一連の事件のせいか。 「そうですね……では」 教授の提案にとりあえず全員が頷こうとした、その時。 「…………待っテ」 唐突に、意外な人物が声を上げる。シャークティの陰に隠れるようにしていた魔法生徒・ココネ。 普段はほとんど口を利かない彼女が、先生たちに淡々と事実を告げる。 「瀬流彦先生カラ、念話。緊急連絡。コノエ コノカが、病院デ……!」 「これは……『禁呪』の魔道書……!」 「長谷川さんの病室でね、僕が彼女と共に見つけたんだ」 「このちゃん! ちょっ、このちゃんッ!」 雨の降り続ける病院。その一室に、無惨な姿となった木乃香が眠っていた。 白い肌に浮かぶ無数の刀傷。捻じ曲がった手足。刹那に揺すられても目を覚ます気配はない。 現代医学では何が起こったかまるで見当もつかぬ状態に、医師たちも対処に迷っていた。 会合の場から急ぎ駆けつけたネギと刹那は、その場に居た瀬流彦に事情を聞く。 「僕は、みんなが会合を開いている間の巡回を受け持っていたわけなんだけど…… ちょうどこの病院の近くを通った時に、強大な魔力が発動する気配を感じてね。 何事かと思って駆けつけてみたら、この状態だったんだ。 どうやら彼女はこの『禁呪』、『転呪移傷』を例の事件の犠牲者たちに使ってしまったらしい」 「そんな……!」 「せ、先生!? 禁呪とは何です? このちゃんはどういう魔法を使ってしまったんです!?」 衝撃を受けるネギ、西洋魔術への無知から、訳が分からず問い返す刹那。 瀬流彦は説明する。その禁呪の内容と、その意味を。 木乃香が覚悟し、体験し、そして耐え切った、その苦痛の概要を。 「こんな重大なこと、1人の判断でやって欲しくなかったんだけど……こうなった以上、仕方ない。 とりあえず病院関係者には緘口令を敷いて、この事実は一般には伏せることになるだろうね。 彼女は表向き病気で入院、面会謝絶、ってことにでもなるのかな。 和泉亜子と全く同じ傷痕を見られたら、一般生徒にも不審を抱かれるだろうからね……」 瀬流彦は淡々と、事後の処理について考えを巡らす。 今回の件は、連続暴行事件とは直接は関係がない。少なくとも彼らはそう考える。 そう考えるから、次に考えるのはこの事態の収拾だった。それが自然な流れだった。 しかしネギも刹那も、そう簡単には割り切れない。2人はそれぞれに、自分を責める。 「このかさん……そこまで、思いつめてたなんて……!」 「なんで自分は気づけなかった……!? このちゃんがそこまで悩んでたことを……!」 雨が降り続ける。彼らの後悔も無念も全て飲み込み、雨が降り続ける―― ――その日の雨は、夕方になってようやく上がった。 濡れきった路面を、満月にあと1日だけ足りぬ月が、照らし始めている。 普段は学生たちが遅くまで出歩く土曜の夜だったが、しかし今夜は人の気配は少ない。 「やっぱ、例の事件のせいかね~。みんなビビッてるのかなー」 「…………」 「まあさ、正直言って、私だってビビってんだけどさ。仕事じゃなきゃこんなトコ歩かないッスよ」 「…………」 「……ねえ、何か答えてよココネ。1人で喋り続けて、バカみたいじゃん、私」 「……うン、馬鹿みたいダと思ウ」 「ちょッ、そこだけ肯定かよッ!」 月の下、連れ立ってあるく修道女姿の2人組。思わずツッコミを入れる片方。 巡回に駆り出されていた見習い魔法使い、春日美空とココネのコンビだった。 本来、こういう危険な任務はまだ彼女たちの仕事ではない。 戦闘力のない2人組、仕事に出るにしても、上司のシャークティと共に行動するのが基本。 しかし……連日の事件を受け巡回を増やそうとすると、未熟な人材も使わざるを得ないのが実情で。 麻帆良学園の広さに比べ、どうしても魔法先生たちの数は足りない。こうでもしないとカバーしきれないのだ。 「まあ、この時間は刀子さんと教授も出てるって言うし? いざという時は、ココネの念話でSOS求めりゃいいんだけどさぁ。 それって要するに、私ら逃げ足以外はまるで使えないってこと? ねぇ?」 「……でもソレ、真実……」 「かーーッ! そりゃそーなんだけどさー!」 ココネの的確な答えに、美空は短い髪を掻き毟る。何ともしがたい無力感。 「ああ、親の意向で嫌々魔法使いしてるとはいえ、こうなると普段の修行不足が恨めしいわ……」 「……ミソラ、ちょっとわざとらしい……。絶対、明日には忘れてる……」 演技がかかった美空の溜息に、ココネはまるで信用してない目つき。 殊勝なことを言ってても、真面目に修行に励むようになるわけでもあるまい。ま、いつものことだ。 春日美空。見習い魔法使い。 彼女の立場を例えて言うなら「知られざる伝統芸能を伝える一家に生まれちゃった」ようなもので。 彼女の意志も適性も関係なく、魔法使いに「ならなければならない」立場。これは正直、キツい。 とはいえ、運動が得意ならそれなりに、勉強が得意ならそれなりに、道があるのが魔法使いの世界。 従者として契約を結びアーティファクトを授かった美空は、体育会系魔法使いの道を歩んでいた。 複雑な魔法を沢山覚えて戦うタイプではなく、恵まれた体力をさらに強化して戦う路線である。 まあもっとも、修行に不真面目な美空は、ロクな戦闘訓練を積んではいなかったが……。 これが普通の伝統芸能や伝統工芸のように、一般にも認知される仕事ならまだ良かっただろう。 しかし、魔法使いというのはあくまで陰の存在。世のため人のため、陰の仕事をする者たち。 ……言っていることは立派だが、そんな空気のような存在、フツーの中学生が望むものではない。 もっと社会に認められ賞賛を浴びるような、そんな仕事に憧れてしまうのも当然で。 「私も陸上競技やってるけどさー。でも、頑張ったところでオリンピックとかには行けないのよ。 まほーつかいが『表』の社会で目立つわけには行かない、ってさ。掟だとか何とか。 そりゃ『戦いの歌』とかアーティファクトとかってドーピングみたいなモンだから、反則だけどさ。 今の私だって、そーゆーの使って本気出せば、男子の世界記録抜く数字出せちゃうけどさ。 でも『素の私』でも、女子中学生の日本記録に近い数字出るんだよ? 学園で一番なんだよ? それを、全国大会には絶対出るな、とかさ。仮病つかってサボれ、とかさ。 いっくら魔法使いだからって、そーゆーのストレス溜まるんだよねー、ったく……」 グチグチと愚痴り続ける美空。過去何十回目も聞かされた話を、黙って聞くココネ。 陰に徹することを強いる、魔法使いの掟。その影響は、こんなところにも現れる。 理屈抜きに走ることが好きな美空にとって、これは苦痛だった。 そりゃ、真面目に魔法使いやる気もなくすというものだ。サボりたくもなろう。 満月にほんの僅か足らぬ月の下、2人は濡れた道を歩き続ける。 一方的に美空が喋り続けて、時折ココネが毒のあるツッコミを入れる関係。 いつもの関係。すっかり馴染んだ、2人の関係。 「にしても、このかも案外熱血というか馬鹿というか……。あんな禁呪、私頼まれたってヤだよ? 大体どっから見つけてきたのさ、そんな貴重な呪文書。初心者が手にするもんじゃないよ? やっぱアレかね、じじぃ関連かね。学園長なら、変な魔道書いっぱい持ってそうだし……」 「…………ミソラ」 喋り続ける美空を、ココネが呼び止める。服の裾をギュッと握り締める。 その彼女の緊張した様子に、流石の美空も表情を変える。 「なになに? どうかしたの?」 「今、何か、変な気配を感じタ……。ひょっとシテ……!」 ざわっ。2人を包む森を、湿った風が吹き抜ける。 どこかから見られているような感触。取り囲まれているような緊張感。 まさか、これは……!! 8th TARGET → 出席番号09番 春日美空 次のページへ
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267 名前:十六夜奇談 ◆grz6u5Kb1M[sage] 投稿日:2013/12/13(金) 02 27 58 ID WEky9wKo [2/6] 1. 月明かりだけが差し込む薄暗い部屋の中、何かを啜る音が反響する。 部屋の中には人影が二つ。 華奢で小柄な少女と、どちらかと言えば大柄で、筋肉質な体付きの少年。 二人はお互い向き合って座っており、少年は少女に手を差し出し、少女は少年の手を取って自分の顔の前へと持ってきている。 ぴちゃ、ぴちゃ、ぴちゃり。 舐めていた。 少女は熱に浮かされた表情で、差し出された少年の手の中指を、一心不乱に舐め回していた。 だがただ舐めるだけでは無く、時折少年の指を咥え込み、何かを吸うみたく口を窄めたりもしている。 否。みたく、では無い。 少女は吸っていた。 少年の血を。体液を。そこに含まれる、少年の生命そのものを。 舐り、啜り、吸収していた。 少年はそんな少女を、ただただじっと見つめていた。 しばらくして、少女はようやく少年の指から口を離した。 どこか焦点の合っていない胡乱な目で、口からはだらしなく涎が垂れている。 少年はくす、と微笑むと、ポケットからハンカチを取り出し、少女の口元を拭ってやった。 我に帰った少女は、羞恥に頬を染めながら顔を俯かせる。 すると、何かが少女の頭の上にぽん、と置かれた。 少年の手のひらだ。 先ほど少女が舐めていた手とは反対の手が、少女の艶やかな黒髪を梳くように、優しく少女の頭を撫でていた。 「もういいのか?」 気持ち良さそうに目を細める少女に、少年は少女の頭から手を離すと、労わるように言った。 少女は少年が頭を撫でるのをやめたことに若干不満そうな表情を浮かべたが、すぐに取り直して頷いた。 「うん、もう大丈夫」 少年はそっか、と頷き返して、自分の中指を見た。 少女が血を吸いやすいように予め付けておいた切り傷は、もうすでに塞がりつつある。 「よし、それじゃあ晩飯にするか」 今日は手軽に野菜炒めにでもするかな、と少年が考えを巡らせていると、何やら熱い視線を注がれていることに気付く。 視線の主は言わずもがな、少女である。 何かを期待するように瞳を輝かせながらこちらを見据える少女に、少年は怪訝な表情を浮かべる。 「どうした?」 と少年。 「えっへっへー。ハルのハンバーグ食べるの久しぶりだなーって思って」 対する少女はにへら、にへらという擬音が聞こえてきそうなほど表情を弛緩させ、これ以上なく浮き足立っている。 それもそのはず。今日は少女の一番の大好物たるハンバーグの日なのである。 基本的に少年の作るものなら何でも大好物の少女だが、その中でもハンバーグは別格だ。 我ながら子供染みた味覚をしていると思うが、好きなものは好きなのだから仕方ない。 しかし、 「へ?ハンバーグ?」 少年はキョトンとした表情で、小首をかしげて少女に訊いた。 「え?昨日約束したでしょ?『明日はハンバーグ作ってやるからなー』って、ハル得意気に言ってたじゃない」 少女もまた、不思議そうに少年に問い返す。 しばしの沈黙。 それを破ったのは、少年の発した実に間の抜けた声であった。 「……………………あー」 「もしかして、忘れてたの?」 見る見るうちに少女の大きな瞳が潤み、形の整った眉が吊り上っていく。 少年は両手をあたふたとバタつかせて、必死に弁解の言葉を探し始める。 「い、いや!忘れてない!忘れてないぞ!ただちょっと他のことに気を取られてたっていうか、頭からスッパリ抜けてたっていうか、記憶にございませんっていうか……」 「忘れてたんでしょ」 「うっ……」 少女のズバッとした物言いに、少年は力無く項垂れた。 またしても沈黙が場を支配し、微妙に重苦しい空気が漂う。 部屋の内部を照らし込んでいた月明かりも今は雲に隠れ、暗黒の帳が二人の間に落ちる。 宵闇に紛れて読み取れない少女の表情。 268 名前:十六夜奇談 ◆grz6u5Kb1M[sage] 投稿日:2013/12/13(金) 02 29 12 ID WEky9wKo [3/6] 少年は所在無さげに頭を掻き、目を伏せっておずおずと口を開いた。 「……ごめん、すっかり忘れてた」 そして静かに、頭を垂れた。 「ハルのばか」 ぷいす、とそっぽを向く少女。目が暗闇に慣れてきたのか、頬を膨らませているのが見て取れた。 そんな少女の様子がなんだか微笑ましくて、知らず、少年の顔が綻んだ。 少年の態度が気に食わなかったのか、少女の頬が更に膨らむ。 「いや本当にごめん。悪かった。埋め合わせと言っちゃなんだけど、明日はちゃんとハンバーグ作るから。だから許してくれよ、な?この通り」 眼前で手のひらを合わせるようにして、ひたすら平謝りする少年。 「ふんだ。ハルの言うことなんて、もう絶対ぜぇ~ったい信用しないんだから」 しかし、少女の機嫌は依然として直らない。それどころか、ますます悪くなる一方だ。 どうやら完全にへそを曲げてしまったらしい。 少年は次第に、先ほどまでの微笑ましいものを見る目から、段々と涙目になってきた。 そして、少女に機嫌を直してほしい一心で、ついその言葉を口にしてしまったのだ。 「今日一緒に寝てやるから!」 瞬間、少女の瞳がギラリと光った。 少年は自らの失言に気付いたようで慌てて口を押さえたが、もう遅い。後の祭り、後悔先に立たず、口は災いの元、である。 少女は一瞬、言質は取ったとばかりにほくそ笑むと、先ほどまでの不機嫌はどこへやら、太陽のような笑顔で少年に向き直った。 「しょうがないなあ、そんなに言うんなら許してあげる」 でも、と少女は続けて、 「そのかわり、今言ったこと、忘れないでね?」 ―――ハ、ハメられた……。 少年は愕然と肩を落とす。 寂しがりで甘えたがりな少女は、何かと少年と一緒に寝たがる。 少年としても少女と一緒に寝るのは決して嫌では無いのだが、16歳にもなってまだ一緒に寝ているというのは、少女の教育上よろしくないのではないかと考えている。 だから出来る限り少女には一人で寝させるようにしているのだが、敵もさる者、少女もまたあらゆる手段を使って少年と一緒に寝ようとする。 そのひとつがこれだったのだ。 どこからが計算だったのか、少年はまんまと少女と一緒に寝る約束を取り付けさせられてしまった。 「ほら、早く晩ごはんにしましょ。わたしお腹空いちゃった」 すっかり上機嫌になった少女は、鼻歌でも歌いだしそうな調子で少年の手を取る。 どうやら今夜は少年と一緒に寝られることが決まって、すっかりご満悦のようだ。 少年は観念したように、深々とため息を吐いた。 少年の名は、十六夜晴臣。 少女の名は、十六夜雨音。 この世でたった二人の、血を分けた双子の兄妹である。 269 名前:十六夜奇談 ◆grz6u5Kb1M[sage] 投稿日:2013/12/13(金) 02 30 19 ID WEky9wKo [4/6] *** 日本のどこかに存在する地方都市・十六夜市。 十六夜家は、この地に古くから存在する名家だ。 市と同じ姓を持つこの家には、代々受け継がれてきた役目があった。 それは、十六夜市という土地に棲む霊なる存在を鎮め、時に滅するという役目。 つまるところ十六夜家とは、霊能者の家系なのだ。 そういった特殊な家系に、晴臣と雨音の二人は、16年前、母親の命と引き換えに双子として生を受けた。 晴臣は生まれた時から、高い霊力をその身に宿していた。 歴代最高の資質とされ、また晴臣自身の努力もあって、小学校を卒業する頃には、そこらの亡者など束になろうと問題にならない程の実力を身に着けていた。 しかし、そんな晴臣とは打って変わって、雨音には霊能者としての才能はこれっぽっちも無かった。 いや、才能が無いどころの話では無い。 それどころか、どういうわけか彼女は、身に宿す霊力の総量が一般人のそれと比べても極端に少なかったのだ。 霊力とは魂の力。言い換えれば生命力だ。 それが常人よりもはるかに少ない彼女は、本来なら一人では生きることすらままならない。 だが、そのかわり雨音には、晴臣よりも更に特異な能力が生まれつき備わっていた。 雨音の持つ特異能力。 それは、他者の血を吸うことにより、その血液を通して霊力を吸収し、自分の霊力とすることができるというものだった。 そうすることによって雨音は不足分の霊力を補い、初めて人並みの人間足りえるのである。 勿論、だからと言って誰彼構わず血を吸って良いわけでは無い。 霊力を吸収するということは、即ちその者の魂の一部を吸収するということ。 普通の人間から血を吸えば、吸われた人間はたちまちのうちに霊力が枯渇し、場合によっては魂が消滅してしまうという事態になりかねない。 自然、彼女が最低限普通の人間として生きるためには、ちょっとやそっと吸われた程度ではビクともしない、並外れた霊力を持った人間が必要だった。 そしてそんな人間は、幸運にも、彼女の最も身近に存在した。 「雨音、ちゃんと布団入ったか?」 晴臣は電気の紐をつまみながら、隣で寝ている雨音に尋ねた。 「んー」 雨音は頭までずっぽりと布団を被って気の無い返事を返した。 すでに夢心地になりつつあるようだ。 晴臣は電気を消すと、いそいそと布団に潜り込んだ。 春先とはいえ、夜はまだまだ冷える。 さすがに雨音のように頭まで布団を被ったりはしないが、しっかりと肩まで布団をかけた。 晴臣はちらりと雨音の方を見た。 生まれた時から霊力が少なく、誰かから霊力を吸わなければ、生きることすらままならない双子の妹。 晴臣は物心つく前から、そんな妹に血を与え続けてきた。 彼女を一人前の人間として生かすことができ、且つ彼女に霊力を与えてもほとんど人体に影響が無いほど膨大な霊力を持っている人間は、彼しかいなかったからだ。 けれど晴臣は、そのことに関して嫌だと思ったことは一度も無い。 そのことに関して思うことは、たった一つだけ。 雨音に対する、途轍もない罪悪感だけだ。 雨音とは対照的に、自分は人並み外れた高い霊力を持って生まれてきた。 まるで本来は雨音の取り分だったはずの霊力を、根こそぎ奪ってきたかのように。 いや、少なくとも晴臣はそう思っている。 自分が雨音から霊力を、生命を奪ってしまったのだと。 だから晴臣は、雨音に霊力を与え続けている。 否、返している、と言った方が正しい。 自分のこの霊力の半分は、元々は雨音のもののはずだから。 自分さえいなければきっと、雨音はこんなことに苛まれずに済んだはずだから。 俺が生まれてきたから、雨音はこんなにも不自由な体質になってしまった。 俺が生まれてきたから、雨音は今はもう天に還った父に、落ちこぼれだ、化け物だと邪険にされ続けた。 俺さえ、生まれて来なければ。 そこまで考えて、晴臣は小さく頭を振った。 ダメだ、こんなことを考えては。 思念もまた魂の一部。霊力の一部だ。 こんなことばかりを考えていては、次に雨音に霊力を返す時、何か悪影響を及ぼしてしまうかも知れない。 晴臣は考えることをやめて、ぎゅっと目を瞑る。 それから睡魔に意識が飲まれるまで、そんなに時間はかからなかった。 270 名前:十六夜奇談 ◆grz6u5Kb1M[sage] 投稿日:2013/12/13(金) 02 32 01 ID WEky9wKo [5/6] 隣で晴臣が寝息を立て始めているのを感じて、雨音は目を開いた。 布団からそっと頭を出し、晴臣を見る。 心地良さそうに眠る晴臣の寝顔は、本当に無防備で。 雨音はたまらず、晴臣に抱きついた。 腕と脚を晴臣の身体に絡めて、晴臣の胸に顔を埋め、思いっきり息を吸い込み匂いを堪能する。 えへへ。ハル。ハル。ハルの匂いだあ。あったかいなあ、ハルは。 晴臣が自分のこの体質に対して、何か負い目のようなものを感じているのは、雨音も気付いていた。 そして、晴臣が自分のことをとても大切に思い、また、心配してくれていることも知っている。 それを実感する度に、雨音は晴臣のことが愛しくて愛しくて仕方なくなる。 晴臣に大切にされていると思うと、胸がドキドキして、頭の中がボーッとして、お腹の下辺りがキュンキュン疼くのだ。 でも。でもね、ハル。あなたは一つ勘違いしてる。 わたしはこんな体質に生まれてきたことを、一度だって嫌だと思ったこと無いんだよ? それどころか雨音は、自分をこういうカタチに作ってくれた父親に、自分をこんな体質に産んでくれた母親に、深く深く感謝していた。 不完全で、不安定で、晴臣から血を貰わなければ、すぐにでも朽ち果ててしまうだろうこの身体。 自分の生殺与奪の権利は全て、晴臣によって握られていると言っても過言ではない。 雨音はそれが嬉しかった。 たまらなく嬉しかった。 何故ならそれはまさしく、自分の全ては晴臣のものだという証明に他ならないではないか。 この身体も、この心も、この命も、この魂すらも。 全てが晴臣のものだという確固たる証明。 もしも晴臣に捨てられたら、自分は本当の意味で生きていけなくなる。 晴臣以外の人間の血など飲む気にもならないし、第一そんなこと、この街を守ることが使命の晴臣が許すはずが無い。 自分は晴臣の庇護下でしか生きることを許されない、晴臣の所有物。 言わば、晴臣の飼い犬のようなものだ。 瞬間、雨音はゾクリと身震いした。 飼い犬。飼い犬。飼い犬……。 そう、わたしは飼い犬だ。 ハルに血という餌を与えられて、霊力という鎖に繋がれた飼い犬。 ご主人様がいなければ何もできない、生きることすらできない、無能で役立たずな駄犬。 それが、わたし。 雨音は晴臣に抱きつく腕に力を込めた。 その小ぶりな胸を晴臣の腕に押し当て、晴臣の太ももに自らの秘所を擦りつける。 知らず、頬は上気し、甘い吐息が漏れる。 気付けば雨音は、まるで発情期を迎えた犬のように、腰を振り、身を捩じらせ、快楽を貪っていた。 秘所はすっかり濡れそぼっており、晴臣の太ももを濡らしている。 雨音は虚ろな瞳で、再び晴臣の方を見た。 すぐ隣で、自分がこんな痴態を晒していることなど文字通り夢にも思っていないだろう彼は、すうすうと安らかな寝息を立てている。 ハル、ごめんね。いつもいつもわがままばかり言って。 今日だって夕食のことで、あんな生意気な態度を取っちゃって。 怒ったよね?腹が立ったよね? ハルはいつだって優しくて、わたしもそんなハルが大好きだけど、たまには怒ったっていいんだよ? ううん、むしろハルは、もっと怒るべきだよ。 本気で怒って、本気でお仕置きして、しっかり躾け直さなきゃ。 特にこんなわがままで、生意気で、そのくせご主人様に発情して勝手に自慰行為に耽るようなどうしようも無い雌犬には、キツいお仕置きをしなくちゃダメ。 殴ったっていい。蹴飛ばしたっていい。わたしは全部受け入れるから。 ハルにされることなら、わたしはどんなことだって受け止めてみせるから。 でも、それでもし、もしわたしが、今より少しはお利口さんになったら。 その時は、よくできたなってわたしを褒めて、たくさん可愛がってほしい。 よしよしって頭を撫でで、ぎゅって抱きしめてほしい。 ああ。ハル、ハル。 わたしを痛めつけて。わたしを甘えさせて。わたしを傷つけて。わたしを抱きしめて。わたしを支配して。わたしを守って。わたしを壊して。わたしを愛して。 わたしを、わたしを、わたしを、ワタシヲ―――――――――――――――――――。 果てた。 雨音は息を荒げて、ぐったりと横たわる。 すると、途端に強い眠気が襲ってきた。 しかしその瞳は、意識が夢の中へと誘われるまで、ずっと晴臣に向けられていた。 ハル、大好きだよ。だからずっと、わたしのそばにいてね。 雨音はそっと目を閉じて、眠りについた。
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時のジグパルス 第一話 パイロット版ver4 ○長崎市内 夏の昼間。 立ち並ぶ中規模のビル。 人々の雑踏。 街中を路面電車が走る。 ビルに取り付けられた電子掲示板。 戦時国民管理局からのお知らせが流れる。 (一般向けガソリン販売規制ついてのお知らせ。) 終点駅で止まる路面電車。 駅の前にはバスターミナルが広がる。 路面電車から降りる客にまぎれて 夏着を着た少女が降りてくる。 きょろきょろと周りを見回す。 ポケットからメモ用紙を取り出す。 長崎ハマダ町、と手書きされている。 リノ「ハマダ町・・・ハマダ町・・・」 と、回りを見回す。 バスが順次動き出す。 少女はバス会社の初老の職員に気付く。 メモ用紙を見せて尋ねる少女。 職員はメモ用紙を手にとる。 職員「ああ、ハマタだね。ハマタ町行きなら5番だよ」 少女お辞儀をしてバスに乗り込む。 少女を乗せたバスが動き出す。 ○長崎沖・海上 上空に浮かぶ二機の巨人。 巨人は足と手をだらりとさせている。 足元には青い光で覆われている。 手には先端に長い突起のついた銃のような武器を 持っている。 ○同・巨人B内部・コクピット 操縦者の少年。 口には酸素マスクをつけている。 呼吸が荒い。 額には汗をかいている。 カンナの声『まだ第一波よ、ソウマ。本体がこれからくるわ』 ソウマ「ああ、うん、ちょっとまって」 と、マスクでくぐもった声。 少年は酸素マスクをはずす。 酸素マスクはシートの裏に吸い込まれていく。 少年は両耳を両手でふさぐ。 男Bの声『こちらCIC。ムツネはまだ穴倉で待機中だ。 ラボから許可がおり次第、そちらに向わせる』 ○同・巨人A内部・コクピット 操縦席に座っている少女。 周りはデーター画面で埋め尽くされ手元で モニター操作している。 カンナ「ラボの許可を急がして、 それと二人ともAC容量が半分以下だわ」 男Bの声『了解。ムツネに追加ACを運ばせる。 それとリー女史は佐世保から帰島中。 ついでにノーラと松さんは後ろで各所と協議中』 ○同・海上 二体の巨人。 頭部が左右にきょろきょろと動く。 海面に波がおきはじめる。 地鳴りのような音が響く。 海面がどす黒く染まりだす。 ○同・巨人A内部・コクピット 突然、データー画面が消えてアラート表示に切り替わる。 外の風景が映し出さされる。 シートに深々と座りなおし、操縦桿をにぎる少女。 ○同・巨人B内部・コクピット ソウマは両耳を押さえている。 モニターでその様子をきょろきょろと伺う。 大きく息をはく。 ○長崎、海沿いの国道 少女を乗せたバスが走っている。 バスの車内は少女一人だけ。 最後部の座席に座っている。 沖合いにシルエットが異様な島が見える。 少女はその島を見つめる。 ○アイランド・戦闘指揮所(CIC) さまざまな戦闘情報が集まっている。 モニターのマップに光点が点灯している。 インカムを通して英語と日本語が飛び交う。 半分床に埋まったブースが、三つ並んでいる。 作業に追われるオペレーター。 後方には二つの副官ブース続く。 副官二人は立ったまま仕事している。 女性の副官は英語で怒鳴り散らしている。 最後部の指揮官ブースは不在。 ↓ 感想をどうぞ(クリックすると開きます) +... 名前
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「止まれ!」 砂時計が回転し、砂が静かに落ち始める・・・。 俺は喪雄。IT系企業に勤める28歳。 根っからの喪男である俺は当然彼女居ない暦=年齢。 俺がこの不思議な能力を身に付けたのは先週の日曜日。 この日から俺の人生が大きく変わり始めた。 その日は近所の公園でフリーマッケットが行われていた。 このフリーマーケットは割と有名らしく、参加者も多い。 客足もかなりの数である。 別段フリーマーケットが好きと言う訳でもないが、休日だと言うのにやることもない 俺は、宛ても無くフリーマーケットをぶらついていた。 突然現れた奇妙な光景に、俺はふと足を止める。 普通フリーマーケットの商品は色々な物が所狭しと並べられているが、 そこには風呂敷の上に砂時計が一つだけしか置かれていないのだ。 店番の人も居ない。 別に砂時計が好きな訳ではないのだが何かが気になり、砂時計を手に取る。 その瞬間、急に視界が真っ白になる。 真っ白な視界に何かが浮かび上がってくる。 「砂時計?」 風呂敷の上に置かれていた砂時計だった。 何者かが俺の意識に囁きかけてくる。 「砂時計の落ちる時間は30秒。その間だけ時を止める事ができる」 男の声。 「使い方は『止まれ』と念じればいい」 女の声。 「一日に何度使ってもいいけど、それなりの代償は貰うよ」 子供の声。 「代償とはお前さんの一日分の寿命」 老人の声。 「ちょっと、あなた、大丈夫? 顔色が真っ青よ」 中年の女性が心配そうに俺に声を掛けている。 どうやら白昼夢でも観たらしい。 「だ、大丈夫です。ちょっと立ちくらみがしただけですので・・・」 俺はふらつきながらその場を後にした。 六畳一間の自宅アパートに帰った俺は体に起こった異変に気付く。 「あざ?」 右手の甲に今まで無かった痣があった。 心なしか痣の形が砂時計の形に見える。 「まさかな。関係ないか」 独り言を言いながら手に出来た痣を見つめる。 ピンポーン。 ドアの呼び鈴が鳴った。 カチャ。 ドアを開けると、そこには見知らぬ親子が立っていた。 母親らしき女性は20代後半、ストレートヘアーのスリムというか、げっそりした感じの女性。 化粧っ気がないからか、やつれて見えるが、顔の作りは悪くはない。 子供の方は小学生低学年位か。ツインテールに上がり目のせいか、小生意気な感じがする。 見覚えの無い親子連れの登場で困惑している俺に、母親らしき女性が話し掛けてくる。 「あなたのために祈らせて下さい」 何だ、宗教かよ。まぁ、喪男の俺んとこに来る女なんて、宗教関係か、マルチの勧誘位だが。 「立ち話も何なので、上がらせてもらって・・・」 勝手に上がりこんでくる親子。 「ちょ、ちょっと、何勝手に上がりこんでるんだよ!」 俺の言うことなど意に介さず、奥に進んで行く母親。 「一人暮らしですか? やっぱり男性の一人暮らしは散らかってますねぇ〜」 放っておけよ! って、何かってに座り込んでるんだよ! この女勝手にコタツの上のものをベッドに移動しやがった。 うわ、エロ本摘み上げるんじゃねぇよ! 「ちょっと、勝手に人のものを触らないでくれませんか?って、そうじゃなくて、 何上がりこんでるんですか!」 慌ててコタツの前に行き、お気に入りのエロ本を母親の手から奪う。 「そんな所に立ってないで、遠慮なさらずに座ったらいかがですか?」 まるで自分の部屋のように振舞う母親。 「遠慮して立ってる訳じゃないし!」 「ママー、ジュース飲んでいい?」 いつの間にか冷蔵庫から買い置きのペプシを持ってくる娘。 「あら、まぁ、すいません。お兄さんにちゃんとお礼を言うのよ」 俺はあげてねぇよ! 何勝手に冷蔵庫開けてペプシ持ってきてんだよ! 「お兄ちゃん、コップ持ってきて〜」 勝手に冷蔵庫から持ってきた挙句に、コップまでねだるか、このガキは! 脱力した俺はキッチンまでコップを取りに行く。 コタツの上には母親が所狭しと広げた怪しげなパンフレット。 「はい、コップ」 奥歯をかみ締め、憎々しげに子供の前にコップを置く。 俺は親子の対面どかっと座った。 「で、何なんですか? あなたたちは」 母親はカタログを広げ終わったらしく、こちらを向く。 その横で娘がコップにペプシを注いでいる。 シュワシュワシュワ。 コップに注がれて行くペプシ。 「ところで、喪雄さん。あなた最近良くない事が多くないですか?」 俺の質問をまったく無視し、母親が話し始めた。 「何で、俺の名前を?」 見ず知らずの女性に俺の名前を呼ばれ、不思議そうな顔で問いただす。 「表に書いてあった」 玄関の方を指差した娘が言った。 シュワシュワシュワ。更に注がれるペプシ。 あぁ、そうか、表札掛けてあるしなって、おい、溢れる、溢れる! そう思った瞬間、コップからペプシが溢れた。 「あらあら、大変」 そう言いながら母親はこぼれたペプシをコタツ布団で拭き始める。 「うわ、ちょっと、今雑巾持ってきますから!」 慌てて雑巾を取りに行く俺。 「大丈夫ですよ。大した事ありませんから」 そう言いながらパンフレットまでコタツ布団で拭き始める母親。 いや、お前が大したことなくても、俺に取っては大したことあるから! ってか、それ、俺のコタツ布団だから! 急いで雑巾を持って行くが、時既に遅し。溢れ出したペプシはことごとく コタツ布団が吸い取っていた。 コタツ布団に黒い大きなしみ。 俺は脱力して座り込んだ。 「喪雄さん。あなた最近良くない事が多くないですか?」 何事も無かったかのように話を始める母親。 在ったよ。たった今起こったよ。ってか、起こってるよ。 お前らだよ! お前ら親子が来た事が良くない事だよ! 「在りますよ!」 力いっぱい相槌を打つ。 「そこで、我が幸福の連絡会では喪雄さんを幸福にするために〜(略)」 うわ、説明始めたよ、この女。 つーか、帰ってくれよ・・・。今の俺にはそれが一番の幸福だよ・・・。 母親が鞄から何か取り出す。 うわ、壷かよ。宗教と壷のダブルパンチかよ! 「この壷に毎日お祈りすれば〜(略)」 「そういうのはいりませんから」 俺は話を拒絶する意味で、手を前に出す。 それと同時に(偶然か?)母親が壷を俺の前に出した。 俺の手が壷に当たり、壷が母親の手からこぼれ落ちる。 やばい! この女のことだから、割れたりしたら弁償させられる! うわ、と、止まれ! 俺は慌てて壷を掴もうと手を伸ばす。 何とか壷をキャッチ! やれやれ、一安心。壷をコタツの上に置く。 その時、俺は右手の異変に気付いた。 右手の甲に砂時計が乗っているのである。 サラサラ・・・。 砂時計の砂は少しずつ落ちて行く。 「な、なんだ? 何で俺の右手に砂時計?」 俺は視線を砂時計から母親の方に移した。 ん? 何か変だ。視線の先には壷を落とした時のポーズで固まっている母親。 その横でペプシを飲み続ける娘。 「どうしました?」 母親の顔の前で手をヒラヒラさせてみる。 無反応な母親。 母親の頬をツネってみる。 やはり無反応。 娘からコップを取り上げ、逆さにしてみるがペプシはこぼれない。 ちなみに、コップを逆さにしたのは娘の頭の上だ。 俺はさっき観た白昼夢を思い出した。 時が止まったのか・・・? そして時が動き出した。 「あ、壷が! あい痛たたたたたっ」 頬を抑え、痛がりながら慌てる母親。 バシャ。ゴツン。 頭からコップが直撃し、娘がペプシまみれになる。 「壷が割れ・・て・・・無い?」 頬を抑えながら、コタツの上に置かれた壷を見付け、あっけに取られる母親。 頭にコップがぶつかった痛さからか、娘が泣き始めた。 俺は我に返り、右手を見る。 右手に乗っていた砂時計は、今はもう無い。 「あの、今壷が落ちて、あれ? 壷が壷で・・・」 何が起こったか判らずにうろたえる母親。 そんな親子をよそに、俺は考え事を始める。 割れずにコタツの上に置かれている壷。 飲んでいたはずのコップが、頭上から落下して泣き始めた娘。 時間が止まるのは本当のことだったのか。 あれは白昼夢なんかじゃ無かったのか。 俺はあの時観た白昼夢の内容を必死に思い出す。 確か、止まれと念じれば30秒間時間が止まるんだよな。 1回に尽き寿命がうんぬん言ってたけど、なんだっけ? まぁ、いいか。 母親が頬を痛がってるってことは、時間が止まってる間に行ったことでも、 時間が動き出すと影響があるが、何が起こっているかは判らないってことか・・・。 などと冷静に分析しつつ、考え事を続ける。 「コップが頭で、ペプシに〜」 未だに状況が飲み込めずに泣きじゃくる娘。 「静かにしなさい! 喪雄さん、聞いていますか?」 いつの間にか母親は冷静さを取り戻し、説明を再開していたらしい。 「あ、え?」 「あなたの幸運に関わる大切なことですよ? ちゃんと聞いて下さい。 兎に角ですね、毎日この壷に祈っていれば・・・」 話を元に戻そうとする母親。めげないと言うか、なんというか・・・。 「コップが頭で、ペプシに〜」 未だに状況が飲み込めずに泣きじゃくる娘。 「静かにしなさい! 喪雄さん、聞いていますか?」 いつの間にか母親は冷静さを取り戻し、説明を再開していたらしい。 「あ、え?」 「あなたの幸運に関わる大切なことですよ? ちゃんと聞いて下さい。 兎に角ですね、毎日この壷に祈っていれば・・・」 話を元に戻そうとする母親。めげないと言うか、なんというか・・・。 そういえば、この能力は何度でも使えるって言ってたよな。 もう一度使ってみるか。 止まれ! 俺は心の中で念じる。 口を開いたままで固まる母親。辺りに静寂が訪れる。 時間は止まったようだ。 俺は右手を見る。右手の上には砂時計が乗っていた。 どうやら砂時計は、時間が止まっている時に現れるものらしい。 俺は立ち上がり、壷をゴミ箱に捨ててくる。 砂時計を見ると半分以上残っている。 まだ止まってる時間は残ってるみたいだな。 俺の中のちょっぴりの欲望とイタズラ心が湧き上がる。 ワシッ 母親の胸を鷲掴みする。 モミモミモミ。 痩せている割にはこの女、結構胸があるななどと考えつつ、横に座っている娘に目を向ける。 目に涙を溜めた状態で下を向いている。 どうやら母親に叱られて泣くのを我慢している状態で止まったようだ。 「このガキ、よくも好き勝手やりやがって」 この娘の暴虐武人ぶりを思い出し、一発小突いてやろうと考えるが、思いとどまる。 「幼児虐待は良くないよな・・・」 しかし、腹の虫は収まらない。 「ま、まぁ、俺が直接やらないならいいか・・・」 などと、勝手な解釈の元、娘の頭上に再びコップをセットし、元の位置に戻る。 そして、時が動き出す。 「壷からエネルギーが、きゃっ」 ゴチ。 胸を両手で抑えながら、母親は体を仰け反らせた。 「うわぁぁん」 再び頭にコップが落ち、その衝撃で泣き始める娘。 「どの壷ですか?」 俺はとぼけて母親に聞き返す。 「この胸・・・じゃなく、この壷・・・壷、壷? あれ? 壷はどこ?」 突然消えた壷を探し始める母親。 「この壷がですね。え〜と壷が・・・」などと言いながらコタツの布団を捲り上げたりしている。 「うぇぇん。コップが、コップがぁ」娘は相変わらず泣いている。 「そう、このテーブルの上にコップが・・・」 「コップ?」さりげなく突っ込みを入れる。 「そう、コップじゃなく・・・ちょっとうるさい!」 ベチン。 母親が泣きじゃくる娘の頭を叩く。 あ、幼児虐待だ。い〜けないんだ、いけないんだ〜などと心の中で歌いつつ、親子を観察する。 壷を諦めたのか、母親は探すのを止め、再び鞄の中から何かを取り出した。 「えーと、壷ではなく、この数珠を身につけて毎日お祈りをすれば・・・」 どうやら壷を諦め、数珠を売るつもりらしい。 娘の方は頭上を警戒して天井の方を見つめている。 俺は再び時を止める。 とりあえず、娘の頭上にコップを配置。 母親の手から数珠を取り上げ、ゴミ箱にポイッ。 変わりに雑巾を握らせる。 残り時間はまだある。 再度母親の胸を揉み始める。 モミモミモミ。 「ただ、揉んでるだけじゃつまらないな」 そう考えた俺は、服の中に手を入れ、直接触ってみる。 「うわ、柔らけえ。このポッチリは・・・」 砂時計の砂が残り少なくなる。 名残惜しかったが、服から手を抜き、元の位置に座った。 時が動き出す。 何か違和感を感じたのか、母親の体がビクっと震え、雑巾を握り締めた。 娘の方は、頭上に現れたコップに気付き、受け止めようとするが、人間、そんな一瞬で行動できる ものではない。 娘のおでこにコップが直撃する。 ちなみに、このコップ、強化プラスティック製品なので割れる事は無い。 点灯防止用の錘が底に仕込まれているタイプなのでそこそこ重かったりもする。 「うぇぇん」 「雑巾は身に付けるものじゃないし、第一、それうちの雑巾ですよ?」 俺は雑巾を指差し、母親に話し掛ける。 「え? 雑巾?」 母親は、俺の言葉に我を取り戻し、しっかりと握っている雑巾に目をやった。 「あれ? 数珠が雑巾で、雑巾が数珠で・・・」 訳の判らないことをしゃべりながら、母親は雑巾を放り投げ、数珠を探し始めた。 娘の方に目をやると、どうやらコップに気付いてからでは受け取れないこと学習したらしく、 ベッドに放り投げられた週刊誌で、頭をガードしてい。なかなかやるな! 小学生! ついに数珠を諦めた母親が、違う話を切り出してくる。 「最近、この辺りも物騒になってきてますよね? 火事も多いですし。 私たち幸福の科学会では、火事に備えて携帯用消火器を・・・」 今度は消火器の販売に切り替えるらしい。母親はそう言いながら鞄から消火器を取り出そうとする。 ちなみに、鞄は母親の後ろに置いてある。物を取り出すときはこちらにお尻を向ける形で取り出すのである。 母親が消火器を取り出そうとした瞬間に時を止める。 ちょっと鞄の中を覗く。 携帯用消火器、ハンカチ、ラベルを貼り替えた怪しげな水、その他etc・・・。 某アニメの四次元ポケット並に、色々入れられている。 さすがにこれを全部出されたら、厄介だ。俺は鞄の中身を全部ゴミ箱の中に捨ててくる。 とりあえず、娘が頭をガードしている週刊誌を除けて、コップを頭上にセット。 時間は後15秒位残っている。 お尻を向けて四つんばいになっている女性が目の前に居たら、当然触ってみたくなるのが 男と言うものである。 母親のスカートを捲り上げる。以外にも猫さんプリントのパンツが目の前に現れる。 俺は母親のお尻を撫でまわし始めた。 「暖かい・・・」手がちょうど股の部分に触れた時、俺はそう呟きながら手を止めた。 「ちょっと、中を見てみようかな」俺の心臓はすでに早鐘のごとく、バクバク脈打っている。 母親のパンツを膝まで下ろす。目の前のお尻から、女性器があらわになる。 触ろうと手を伸ばした時に、砂時計の砂が残り少ない事に気付いき、慌ててスカートを戻し、 元の場所に座り直した。 そして時が動き出す。 ゴッ 頭を週刊誌でガードしていた安心感からか、ものの見事にコップは娘の頭に直撃。 ガードしていた週刊誌が無くなっていることに気付き、口を尖らせ半泣き状態になる娘。 「あれ? 変ね。中身が無いわ。他の鞄と間違えたのかしら?」 中身が入っていない事に気付いた母親がこちらに向き直る。 「すみません、ちょっと鞄間違えたみたいで・・・。すぐに持ってきますね」 言うや否や、母親は立ち上がろうとした。 「あ、パンツ戻し忘れた」俺がそう考えた瞬間。 ズルッ。ブチッ。ズサー。 頭からものの見事にスライディングをする母親。 スカートが捲れ上がり、お尻丸出し状態である。 痛さからか、恥ずかしさからか、立ち上がれずにピクピクしている母親。 「お母さん、お尻丸出し〜」 「いやぁん」 娘の言葉に、自分がどういう状態か把握出来たようだ。 慌てて立ち上がろうとするが、ゴムの切れたパンツに再び足を取られ、またまた勢い良く スライディングをする母親。 ズルッ。ブチッ。ズサー。ごちーん・・・。 どうやら冷蔵庫に頭をぶつけたらしい。 「もう、いやぁぁぁぁぁ」半泣き状態でドアから出て行く母親。 娘も、慌ててそれに付いて走って行く。 嵐のような宗教親子が出て行った後には、床に転がった猫さんプリントのパンツ。 「宗教グッズどしよう・・・。次の燃えないゴミは何曜日だったっけかなぁ」 などと考えつつ、俺はドアに鍵を掛けた。 宗教親子を追い返した俺は、今日起こった出来事を、思い返してみる。 どうやら、フリーマーケットで起こった出来事は、白昼夢では無かったようだ。 その証拠に、ゴミ箱には怪しげな宗教グッズが捨てられている。 「俺は、マジに時間を止める力を身につけたのか! すげー、俺、SUGEEEE!!!」 「30秒か。ちょっと短いけど、工夫次第では色々できるよな!? うわぁ、ちょっと、マジ、すげー。何やろうかな?」 時間を止められる、という能力に有頂天になった俺は、猫さんプリントのパンツを握り締め、 ベッドに腰掛けて色々思案を始める。 「銀行でも襲って金奪うか? いや、30秒じゃ無理だよな。 輸送中に襲う? 上手くやれば可能だろうけど、ちょっと計画が面倒だよなぁ」 「まぁ、今はそれほど金に困ってる訳じゃないし、やっぱり、エッチな事に使いたいよな!」 「30秒じゃ、本番は無理だし、うーん・・・。考えてみると結構難しいな・・・」 ベッドの上で、もんどりうって考えているうちに、夜は深けて行く。 ピピッ ピピピピッ 翌朝、目覚し時計の電子音が鳴り、俺は目を覚ました。 枕元に転がる猫さんプリントのパンツが、昨日の出来事が夢ではない事を、物語っている。 何を隠そう、昨夜はこのパンツで2回ほど抜いた。 「夢じゃなかったんだ!」 俺は枕元からパンツを拾い上げる。 ニチャ。 「!?」 どうやら、昨夜の俺汁が、パンツにこびり付いていたようだ。 俺は、慌ててパンツをゴミ箱に放り込み、手を洗いに行く。 昨夜の考えで、30秒は短いが、痴漢位なら可能、と言う結論が出ている。 朝の通勤電車で試してみることにした俺は、はやる気持ちを抑え、身支度もそこそこに出勤した。 ガタン ガタン。 ぎゅ、ぎゅー・・・。 言い忘れていたが、俺の乗る通勤電車は、都内随一の乗車率を誇り、ラッシュも半端じゃない。 痴漢どころか、腕一本、まともに動かすことができない状態である。 「こ、これじゃ、時間を止めても意味が・・・」 俺は、朝のラッシュを諦め、帰りのラッシュに、期待することにした。 俺の勤務する会社は、社員50人ほどの中小企業。 IT系のSEと言えば、聞こえはいいが、実際にやっていることと言えば、社長専属のパソコン指導員 みたいなことである。 朝のチャイムと同時に会社に滑り込む。 ギリギリセーフ。 自分の席に座った俺は、机に置かれたメモを発見する。 庶務担当の佐藤亜紀が、書いたメモである。 亜紀は、うちの課唯一の女性社員で、電話番や交通費の清算など、庶務一般を担当している。 年齢は、今年短大を卒業したばかりの21歳。 ぱっと見、菅野美穂に似ており、天然入っているが、まぁまぁ、可愛いほうである。 内容を確認してみると、丸っこい文字で、こう書かれていた。 「10時に社長室へ行って下さい」 またヅラ社長のお呼び出しである。 本当にヅラなのかは、誰も確認した訳ではないが、毎日変わらぬ髪型、生命感の無い髪質、 やたら頭部を気にするところをみると、本当のことなのであろう。 いつもの呼び出しならば、時間指定などすることはなく、すぐ来いの一言なのだが、 今回の呼び出しには、時間指定がしてある。 いつもの呼び出しとは違うのだろうか? 多少気にはなったものの、帰りの電車のことで頭が一杯の俺は、 大して気にせずに妄想の世界に入り込んだ。 「喪雄さん、10時になりますよ〜」 うちの課には、俺と同じ苗字がもう一人居るので、それぞれ下の名前で呼ばれる。 亜紀の間延びした声により、妄想世界から現実世界に引き戻される。 いつの間にかに、10時になっていたようだ。 俺は社長室に向かう。 社長室の中は、それほど広くは無いものの、高そうな応接セットが置いてある。 奥の社長机には、誰も座っておらず、一人掛けのソファに社長、その向かい側の3人掛けソファには、 女性が座っていた。 「社長、お呼びでしょうか?」 俺は、社長には目もくれず、3人掛けソファに座る女性を見る。 年齢は30歳前後。髪はアップにしているが、下ろせばロングだろう。 PTAのオバサンのような眼鏡を掛けているため、顔の印象はキツメだが、美人である。 チャコールグレーのパンツスーツを着ており、白いブラウスの胸元から覗く胸が、 彼女が巨乳だと言うことを物語っている。 名刺交換を済ませ、俺は、社長の横のソファに腰を掛ける。 名刺から、彼女の名前は荻原久美子と言うことが判る。 某外資系IT企業のマネージャー職のようだ。 外資系とは言え、30歳未満でマネージャー職である。かなり優秀な人材なのであろう。 そんな優秀な人材が、俺みたいな社壊人やってるようなやつに、用があるとは思えないのだが・・・。 話の概要はこうである。 今後うちの社は、今度荻原久美子の勤務する会社と業務提携を結ぶ。 そこで、うちの社から久美子の会社へ出向する人材として、取り立てて仕事もない俺に、 白羽の矢が刺さった、と言う訳である。 今のポジションが気に入っている俺に取っては、迷惑な話だ。 出向した後に行う業務や、出向する時期、その他詳細についての話になる。 俺に拒否権は無いようだ。 コンコン。ドアをノックする音が聞こえる。 亜紀がトレイにコーヒーを乗せて入ってくる。 何を隠そう、亜紀は天然入ってるだけではなく、俗に言うドジっ娘でもある。 給湯室の湯沸し器を壊したり、コピー機を壊したり、何も無い平地で普通に コケたりするのである。 ズルッ そんな亜紀を目線で追っていると案の定、何も無い所でコケた。 しかも、コーヒーの乗ったトレイを持ったままである! 「止まれ!」 俺は時を止めた。空中で止まるコーヒーの載ったトレイ。 ウルトラマンが空を飛ぶようなポーズで、静止する亜紀。 「やれやれ。やっぱり、やったか」 俺は立ち上がり、空中で止まったコーヒーカップを、テーブルの上に移動する。 砂時計の砂は十分に残っている。 「とりあえず、これはコーヒーをこぼさずに済んだ、お礼だ」 俺は、亜紀の胸を揉む。揉みごたえが無い。やはり、貧乳だった。 亜紀の胸を揉みながら、俺はふと、社長の頭を見る。 「これは、確認するしか無いでしょう!」 日頃からの欲望が、この時、一気に爆発した。 俺は社長の頭部に手を置き、髪の毛を触ってみる。 何か硬い金属のような感触が、手に伝わる。 少し力を込めて金属部分を押してみる パチン、と何かが外れる音がした。 どうやら、金属のピンで留めるタイプのカツラのようだ。 俺はカツラを持ち上げ、社長の頭部を観察する。 頭頂部が見事なまでに禿げ上がっている。河童禿げのような状態である。 「うお、ザビエル!」俺は、思わずそんな事を口走る。 ちなみに、この社長は、今年45歳、独身。 砂時計を見ると残り僅か。 俺は急いでカツラを元の位置に戻そうとするが、何せ、一度も身に付けたことも、 触ったこともない代物である。 そう簡単に装着などできる訳はない。 焦る俺を余所に、砂時計の砂は、どんどん減って行く。 間に合わない! そう悟った俺は、亜紀の手からトレイを取り上げ、社長の頭上にセットする。 そう、トレイがぶつかって、カツラが外れた事にするのだ! 「亜紀、スマン。これでコーヒーの件は無かった事にするから!」 先ほど亜紀の胸を揉んだことなど、すっかり無かった事にして、素早く元のソファに座る。 そして、時が動き出す。 くわぁぁぁん・・・。 「ぐが!」 ズサササー。 亜紀は、見事なスライディングで滑り込んだ。 捲れあがったスカートの中から、熊さんプリントのパンツが丸見え状態で、亜紀がぴくぴくしている。 俺は社長に目線を移す。 トレイの衝撃からか、社長の焦点は定まっていない。 再び視線を動かし、久美子の方を見る。 半分口が開いた状態で、久美子は固まっていた。 「な、何だ?」 今ひとつ状況が理解できていない社長の一言により、一同は我を取り戻した。 「す、すみませんでした!」 亜紀は慌てて立ち上がり、こちらを向いて謝る。お辞儀の途中で動きが止まる。 社長の言葉に、我を取り戻した久美子が、社長の方を向き、視線が頭部で止まる。 「いたたた・・・」 ようやく、トレイがぶつかった痛みを感じたのか、社長の手が頭を抑える。 社長の手が止まる。 しばし、気不味い沈黙。 宙を泳ぐ、社長の視線。 どうやら、カツラを探しているようだ。 社長の視線が久美子を見たところ止まった。 一同が、社長の視線の先を確認する。 偶然にもカツラは、トレイのぶつかった衝撃で、久美子の胸元に飛んでいたのである。 慌てて、久美子の胸元にあるカツラを掴む社長。 むぎゅ。 慌てすぎていたためか、はたまた故意なのか。 カツラと一緒に、久美子の胸まで掴んでしまったらしい。 「きゃぁぁぁぁぁ」 バチーン バタン タッタッタタタタタ・・・ 久美子が走り去って行く。 突然の出来事に、硬直している、俺と亜紀。 社長の手は、カツラを握り締めたまま、止まっている。 「社長、セクハラです・・・」亜紀がぼそっと呟く。 「わざとじゃないんだ・・・わざとじゃないんだ・・・」カツラを握り締めたまま、社長が呟く。 「事故・・・と、言うことにしておきましょう・・・」それだけ答える俺。 「頼む・・・」 肩を落とし、顔に赤い手形をつけた社長を尻目に、俺と亜紀は社長室を後にする。 この業務提携の話は無かったことになる、かも知れない・・・。 今、俺と亜紀は、社長の奢りで、イタリアンレストランのランチコース料理を食べている。 社長の奢りと言っても、この場に社長が居る訳ではなく、社長から、口封じ?のために頂いた お金で食事をしているのである。 あの後、冷静さを取り戻した久美子が、荷物を取りに戻ってきた。 社長と、なぜか俺まで土下座させられ、二人で謝ることで、何とか事態は収拾した。 この事は、貸しと言う形になってしまったが。 今後、この事で、俺がどんなとばっちりに合うことやら・・・。 「社長、やっぱり、カツラでしたね〜!」 幸せそうに、パスタを頬張りながら亜紀が話始めた。 「お前さんは、この奢りのランチの意味が判ってるのか?」 「誰も聞いてませんよ〜。多分」ちゅるると音をさせ、パスタをすすりながら、亜紀が話し続ける。 「それに、公然の秘密ってやつじゃないですか〜。今更、みんなにバラしたからって、 誰も驚きませんよ〜」 「お前、もしかしてカツラのことを、みんなにメールで送るつもりじゃないだろうな?」 俺の問いかけに、フォークを持つ亜紀の手が止まる。 「え? い、いやだなぁ、そ、そんなことシマセンよ〜。あはは〜」 亜紀の態度から、明らかに送ろうとしていたことが判る。 「お前なぁ、いくら公然の秘密だからって、人には知られたくないことだってあるだろ・・・。 お前だって、熊さんパンツのこと、とか言われたくないだろ?」 「違います! ぽーさんパンツです!」 亜紀の口から勢い良くパスタが飛び出し、俺の顔に付着する。 ぽーさんとは、ネズッキーアイランドのマスコットキャラで、モチーフが熊のアニメのことである。 「似たようなもんだろ・・・」俺は、顔に付着したパスタを取りながら言う。 「まったく違います! ぽーさんはですね!」 この後、亜紀のぽーさん談義が30分ほど続き、デーザートを食べ終わる頃に、ようやく開放された。 社長も、午前中のことを気にしてか、午後は呼び出しもなく、俺は定時に帰宅することが出来た。 夕方の通勤ラッシュは、午前中ほどではないにしろ、そこそこの混雑具合である。 俺は午後いっぱい、練りに練った作戦を実行すべく、ターゲットの選定を行う。 扉が開き、チャコールグレーのパンツスーツを着たグラマーな女性が乗車してくる。 「今日のターゲットはあの女性に決定!」 俺は心の中で呟きつつ、パンツスーツの女性へと向かう。 混雑により、なかなか身動きが取れなかったが、何とか彼女の斜め後ろに張り付くことに成功。 パンツスーツの女性を少し観察してみる。 髪は黒のロング。俺の位置からは顔は見えないが、眼鏡を掛けているようだ。 新聞を読んでおり(しかも英字新聞)、どこかで嗅いだことがあるような、香水の匂いが微かに漂う。 パンツスーツのヒップラインのお尻から、ボリュームはあるものの、形が良いのが判る。 なかなか色っぽいお尻である。 そんな俺の気配を感じてか、彼女が振り返る。 しばし、見詰め合う俺と彼女。 「お、荻原さん・・・。こ、これから帰宅ですか?」 「あなたは・・・。いいえ、一度帰社しようと思いまして・・・」 そう、彼女は午前中出会った荻原久美子であった。 久美子の勤務する会社と、うちの会社は同じ沿線にある。 とは言え、ラッシュ時間帯に同じ車両に乗り合わせるとは、偶然を通り越し、 運命の出会いと言えるだろう。多分。 「これからご帰宅ですか?」 「はい、今日は珍しく定時に開放されたもので」 悪戯を見破られた子供のように、どぎまぎしながら、当り障りの無い会話を続ける、俺。 キキー 電車の急制動の音が響き渡る。 後ろを向いてる久美子の体制が崩れ、俺の方へ倒れ掛かる。 ぐりっ! 「ふぎゃっ!」俺は久美子のヒールに、足を踏まれ、奇声をあげながら、うずくまった。 久美子は、俺の足を踏んだ事に気付いたのか、慌てて足を戻すが、その反動でバランスを崩し、俺の方に 倒れ込んだ。 むぎゅ〜。 うずくまった俺の顔に、圧力が圧し掛かる。どうやら、うずくまった俺の顔目掛けて、久美子の形の良いお尻が、 乗りかかってきたようだ。 顔面騎乗のような体制の俺と久美子。 「す、すみません」 久美子が慌てて、立ち上がろうとするが、再びバランスを崩し、俺の腹部に久美子が倒れ込んだ。 「ふげへ!」再び奇声を上げる俺。 この時、すでに周りの目は、俺らに釘付けである。 「すみません、すみません」 明らかに動揺している久美子。再び立ち上がろうとするが、またしても、バランス崩す。 「止まれ!」 周りの喧騒が消え、久美子が空中で静止する。 さすがに、何度も圧し掛かられては、堪らない。 久美子を回避しようと、俺は時間を止め、立ち上がろうとした。 ズキッ 久美子に踏まれたつま先に、激痛が走り、俺はバランスを崩し、倒れ込みそうになる。 慌てて、目の前のイケメンのベルトを捕まえ、体制を整えた。 目の前には、宙に浮いた状態で止まっている久美子。ヒールの踵が転がっている。 どうやら、俺の足を踏んだ拍子に、踵が取れてしまい、バランスが取れなかったようだ。 「痛ぅ〜、まったく、何度も倒れ込みやがって。 この尻が!!」 俺は八つ当たりに、久美子のお尻を思いっきり叩く。 ぽよん。 何とも心地よい弾力が、俺の手に伝わる。 ぽよん、ぽよん。 あまりの感触の良さに、俺は、何度も久美子のお尻を叩いたり、撫でたりし始める。 さわさわさわさわ。もみもみもみ。 調子に乗り、胸まで揉む。 お尻の触り心地も良いが、巨乳の胸の揉み応えも、堪らなく良い。 俺は、久美子のシャツ胸元から、そっと手を入れ、胸を直接触り始める。 手が小さな突起物に触れる。久美子は巨乳の割には、乳首は小さい方らしい。 指先で転がしていると、乳首が段々と硬くなってくるのが判る。 どうやら、時間が止まっている間でも、体の反応はあるらしい。 俺は、我を忘れ、乳首を転がし続け、気付くと、砂時計の砂がほとんど無くなっていた。 慌てて胸から手を抜いた瞬間に時が動き出す。 どんっ。 後ろから胸を揉んでいたため、久美子が俺に抱きかかえれるように倒れ込んでくる。 「すみません、何度も・・・。すぐに立ち上がりますので」 「あ、ちょっと、待って」俺は久美子が立ち上がろうとするのを制止した。 周りも、ようやく事態を把握したのか、一人の男性が声を掛けてくる。 先ほど、俺がベルトを掴んだイケメンである。 なるほど、イケメンは行動までイケメンなのである。俺が、このような状況に出くわしたら、恐らく、 影で笑ってるだけで、手など貸しはしないだろう。 「大丈夫ですか?」 俺と久美子は同時にイケメンの方に振り向き、イケメンが手を出してきた。 ズルッ イケメンが手を出したと同時に、イケメンのズボンとパンツが膝までずり落ちる。 「き、きゃぁぁぁぁぁ!」久美子が俺の方を向き、抱きついてくる。 久美子のむにっとした巨乳の感触が堪らない。 久美子の悲鳴にきょとんとしているイケメン君。 周りの視線が、久美子からイケメン君の下半身に移る。 イケメン君も視線の先を追い、自分の下半身に目を移す。 「うわわわ、いや、これは違うんです! ご、誤解です!」などとシドロモドロに言い訳をしながら、 久美子の方へ近づいてくる。 「いやぁぁぁぁぁ」近づいてくるイケメンを見て、更に力いっぱい、久美子が俺に抱きついてくる。 「おま、ちょ、ちょっと、近づくな!」ようやく我に返った俺が、久美子を庇うような体制を取る。 「痴漢か?」 「こいつ、チンコ出してるぞ!」 「変態だ!」 「駅員に突き出してやる!」 哀れ、フルチン状態のイケメン君は、他の乗客に取り押さえられ、扉の方へ連行される。 ようやく落ち着きを取り戻した久美子に、ヒールの踵が取れていることを伝える。 何とか立ち上がることは出来たが、このままでは、歩行は困難であろう。 俺は、次の駅で下車し、俺がサンダルか何かを買ってくることを提案した。 電車を下りる時に、俺が久美子を背負うことに遠慮したのか、久美子が断ってくるが、 現状どうしようもないと納得し、提案を受け入れた。 俺は次の駅で久美子を背負い、下車する。 背中に伝わる、胸の感触が何とも心地良い。 名残惜しかったが、俺は、久美子をベンチに座らせる。 フルチンイケメン君が、駅員に連れられ、久美子に事情を説明。 何とか、事故という事で許してもらい、フルチン事件は一件落着したかに見えたが、 イケメン君がお辞儀をした瞬間に、再びズボンがずり落ち、再び久美子の悲鳴が、 駅に木霊する。 結局イケメン君は駅員室に連れさられることになったようだ。 事故の原因が俺とは言え、久美子も良く事故に遭う人である。 この先、久美子は何度事故に遭うことになるのだろうか? 俺は、サンダルを買いに駅ビルへ向かった・・・。 俺は、先ほどの提案通りにサンダルを購入し、久美子の元へ戻る。 購入したサンダルは、ヒールの踵が折れたことと、久美子の服装を 教え、店員が選んだものなので、趣味は悪くないはずだ。 俺がホームに戻ると、久美子はベンチに座り電話をしていた。 「ちょっとしたトラブルがありまして。 はい、大丈夫です。今日は直帰と言う事でお願いします。 はい。その件に関しましては・・・」 どうやら、久美子は帰社せず、直帰にしたらしい。 久美子が電話を終えるまで待ち、購入した店で、ヒールの修理も行っている 事を伝え、サンダルを渡す。 「ご迷惑をお掛けしました。今度何かお礼をさせて下さい」 「いえいえ。これから、仕事仲間になることですし、お気になさらずに」 「それでは、こちらの気がすみませんので、また後日にでも」 今までの態度を見る限り、久美子は借りを作らないタイプの人のようである。 俺は次の電車を待つべくホームに残り、久美子は駅ビルの方へ向かい歩き始めた。 改札へ向かう久美子のお尻からピンク色の下地の上にネズミのプリントが顔を覗かせている。 どうやら、先ほど転んだ拍子に、ズボンのお尻が破けたらしい。 ネズミさんプリントのパンツとは、年齢の割には可愛らしいパンツだ。 俺は、慌てて久美子に走りよる。 俺の走り寄る気配を感じてか、久美子が振り向き、怪訝そうな顔をする。 俺はそっと、小声で久美子に話し掛ける。 「あ、あの、ズボンの後ろ、破けてます」 俺の言葉に、久美子はお尻に手を当てたまま、耳まで赤く染める。 久美子は見た目よりも、純情なのかも知れない。 俺は上着を脱ぎ、上着を腰に巻くように進める。 久美子は自分の上着を巻くと言ったが、ここは俺も引かず、駅ビルも近いので一緒に行く、 ということで久美子も折れた。 俺たちは婦人服売り場に到着し、久美子は品定めに入る。 俺は普段見ないような彩りに目を奪われ、辺りをキョロキョロとしていると、 店員と視線が合った。 喪男の俺が居るだけで迷惑、と言ったような目で見られる。 久美子は、似たような色のサイドプリーツのスカートが見つかったらしく、試着室へと向かう。 ズボンとは違い、すぐに履いて帰れるように、裾直しの無いスカートを選んだようだ。 恋人同士ならば、彼氏も試着室の前に行き、似合うだの、似合わないだの話し合うところ だろうが、残念ながら俺と久美子は、そういった間柄ではない。 ズボンから、スカートに履き替えるのか・・・などと、考えながら、久美子が試着室に入るの見て いると、ある事に気付く。 着替えると言う事は、一時的にでもパンツ1枚になり、電車で悪戯するよりも、ひと手間省ける。 ひと手間省けると言う事は、その分悪戯する時間が長くなるのである。 そのことに気付いた俺は、さりげない仕草で試着室の方へ向かうが、傍から見ればかなり挙動が 怪しかったかも知れない。 俺は、試着室の傍に立ち、聞き耳を立てた。 シュルル カチャ。 何かをハンガーに掛けた音だ。恐らく、俺の上着だろう。ちゃんとハンガーに掛ける辺りが、 久美子の几帳面な性格を物語っている。 カチャカチャ・・・。 ベルトを外す音。 ヂー・・・。 チャックを下げる音だ。 音だけと言うのは、何とも想像力を掻き立てるものがある。 俺の息子が硬くなり始める。 シュルルル カサカサ。 どうやら、ズボンを脱いだようだ・・・。 時間を止めるなら今しかない! 俺は心の中で念じる。 「止まれ!」
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第一話「参上!天下無敵の女剣士」 新堂まなみは、眼を閉じ剣道着姿で木刀を構えている。彼女は木造屋敷の庭で、人の形を表した木の細工に向かっている。 風が吹くとまなみはカッと眼を見開き、素早く木人形に打ち込む。その黒く長く、さらさらと流れる髪が揺れる。 次の瞬間、木人形は崩れ落ちた。打ち込んだと思われる個所は大きくめり込んでいた。 まなみがふうっ、と小さく息を吐いていると、屋敷から見た目、二十から三十ほどの女性が姿を見せる。 「あ、母さん」 「まなみちゃん、気の使い方にますます磨きが掛かってきたわね。お話があるから、来て」 まなみの母・悠美は、彼女を呼ぶと屋敷の中へと戻る。それにまなみも続いた。 畳部屋に二人が向かい合わせで正座している。悠美が口を開く。 「いい、まなみちゃん。炎術剣士は代々、人の手に負えない魑魅魍魎を倒してきたわ。 その役目を、私からあなたに託したけど、何か変わりはあった?」 「ううん、今のとこは何も。話ってそれだけ?」 すると、悠美はちょっと残念な表情をする。 「う~ん、まなみちゃんはまだ感じないかしら?悪しき力を」 「い、いえ。私もまだ修行不足みたい…」 「これが私の取り越し苦労ならいいのだけれど…」 ふと、まなみが壁に掛けてあった時計を見ると、時刻は既に七時半を回っていた。 まなみは少し慌てて、学校へ行く支度を始めた。 「それじゃ、行ってきます」 まなみは悠美に告げると玄関前にあるバイクに飛び乗り、出発した。悠美が気をつけてと声を掛ける。彼女は遠い空を見つめていた。 バイクに乗ったまなみが青空の下、コンビニの角を曲がり、そのまま桜花高校の校門をくぐり、駐輪場に止まる。 「ふう…ギリギリセーフで間に合った…」 「まなみぃ!教室早く来ないと遅刻だよ!」 校舎の窓から彼女の友人が声を掛ける。 「分かってる、すぐ行く!」 時は一気に放課後。チャイムが鳴り、眼鏡を掛けた中年の男性教師が教室から出ていくと机の上で突っ伏して寝ていたまなみは目を擦りながら起きる。 朝、まなみに声を掛けた友人がニコニコ微笑みながら彼女の目の前に現れる。 「まなみぃ、また寝てたんだ?」 「沙羅か…いいの、数学なんて社会に出たら役に立たないんだから」 「まーた、テスト前に泣くことになっても知らないからね。ねぇまなみ、駅前の商店街行かない? 美味しい今川焼のお店が出来たんだって!」 瞳を輝かせながら言う沙羅に少々呆れ顔のまなみ。 「相変わらず、和菓子好きねぇ…まあいいわ、特にこのあと何も無いし」 「じゃ、さっそく行こ!まなみのバイクならすぐ着くし」 「はいはい、後ろで悪戯しないでね」 二人はさっそく二人乗りで商店街へと向かう。 商店街に到着すると、夕方ということもあり、主婦などの買い物客で賑わっていた。 今川焼のお店の近くには、テレビの取材でもあるのか、カメラやらマイクやらが置かれ、その周辺には、取材陣と思われるスタッフが固まっていた。 「ほら、まなみ。あそこのお店だよ」 「分かったわ…ってすごく並んでるじゃない!」 甘い香りが漂う先にはすでに行列が並び、店が見えないほどであった。 まなみは面倒臭そうに「はぁ、」と溜息をついたが沙羅はそんなことはお構いなしに、まなみを行列へと引っ張るのだった。 その頃、テレビ局の取材陣の元に、突如、紫色の露出が激しい女性が現れた。 髪は青白く、額に角が生えている。明らかに場違い、浮いた格好である。 「ん?すみません、関係者以外の方はここには入らないでください」 スタッフの一人の若い男が、その女性に注意をするが、彼女はそれを気にも 留めないといった表情で。 「あなた、聞こえませんでした?」 「うるさい…爆弾蜘蛛!」 暗い声で、何かを呼び出す。すると、アスファルトに禍々しい模様が浮き出て、そこから、足が八本、灰色の蜘蛛のような怪人が現れた。 「う、うわぁぁぁ!」 「爆弾蜘蛛、この世界での初仕事だ。好きに辺りを破壊しろ」 怪人は口からいくつもの爆弾を発射し、商店街を破壊していく。一瞬にして辺りは騒然となり、人々は逃げ惑う。 まなみたちが並んでいた今川焼の店も当然、被害を受け店員も行列に並んでいた人も蜘蛛の子を散らすように逃げ去っていく。 「もしかして…母さんが言っていた悪の気って…!」 「まなみ、早く逃げなきゃ…ああぁぁぁ!」 「沙羅!?」 振り向くと、爆風で沙羅は吹き飛ばされてしまった。急いで彼女に駆け寄る。 「沙羅、沙羅ぁ!」 何度も名前を呼ぶが、彼女から反応は返ってこない。沙羅を静かに横たわらせ、まなみは怪人と女の方へと向かっていく。女はそれに気づいたようで。 「あら、何か御用?わざわざ殺されに来てくれたのかしら?」 「あなた達…許さない!…炎心変幻!!」 まなみが叫ぶと、彼女の体は炎に包まれていく。当然全裸になって。その炎の中でまなみは姿を変えていく。まず体に着物が現れ、その上に紅の羽織が。続いてミニスカ状の袴が。 足はニーソックスで包まれ草履を履き、腕には赤い籠手が装着される。 そして最後に眩い光を放ちながら腰に刀が現れる。その姿は女剣士といったとこか。 「ふぅ…私って変身するとこんな姿なんだ…!」 まなみは自分の姿を見まわす。 「貴様、何者!?」 「私は…炎術剣士、新堂まなみ!」 「炎術剣士だと?ふん、面白い!爆弾蜘蛛、やってしまえ!」 指令が下りるや、爆弾蜘蛛はまなみに向かって突進する。それをまなみはひらり空高く飛び背後に回り込む。 「…暁一文字!」 刀の名前を叫び、抜刀。そのまま斬りかかる。斬られた怪人はうめき声を上げながら転げまわる。 「炎流波!」 まなみの腕が赤く発光した次の瞬間、炎が光線状になり怪人めがけて飛ぶ。 だが、それを紙一重で避けるとお返しとばかりに爆弾を発射する。まなみの周囲で爆発が起き一瞬怯むと、爆弾蜘蛛の姿を見失ってしまう。 「今だ、爆弾蜘蛛!」 「はっ!?」 気配を察した瞬間には目の前に怪人の姿が。素早く刀で防御姿勢を取るが、体勢が悪くズルズルと押されてしまう。さらに、怪人の手から糸が放たれ、まなみを絡め取り、身動きを取れないようにしてしまう。 「しまった…!」 「いいぞ、爆弾蜘蛛!そのまま、止めを刺しなさい」 じわり、じわりとまなみに接近してくる。そしてまた爆弾が撃ち出されようとしていた。 だがその時、まなみの身体から炎のオーラが放たれ、糸を焼き切り、怪人を吹き飛ばした。 「なに!?」 「この程度、私には通用しない!たぁ!」 まなみが怪人に飛びかかり、勢いよく、何度も斬りつけていく。態勢を崩したその隙を見逃さずに、炎の気を刀に纏わせていく。 「はぁぁぁ…!火炎大破斬!!」 怪人の頭から、縦に刀を振り落とし一刀両断。納刀すると同時に怪人は崩れ落ち消滅していった。 「くっ、なかなかやるようね…今日はここまでよ」 「待ちなさい!あなた達、何者!?」 「…我らは次元鬼族。そして私はスクリタ。以後、お見知りおきを…」 そう言い残すと、スクリタと名乗った女は空間の歪みから姿を消した。 「次元鬼族…それが私が戦う相手、か…」 まなみがこれからのことを考えようとした時、突然、その思考は断ち切られる。 「す、すみません!あなたがあの化け物を退治したんですか!?」 「ふえぇ!?」 振り向くと、カメラとマイクがまなみに向かっており、一般人も野次馬の如く集まっていた。まなみが驚くのも無理はない。彼らは逃げるか気絶していたと思っていたから。 「いや、その私は…(まずい、適当にやり過ごして逃げなきゃ…)」 「確か、新堂まなみさんと名乗られてましたよね?」 まなみは絶句した。少なくとも名乗りの時点でこのマスコミ集団は目覚めていたということだ。 「すごーい!まなみって、正義の味方だったんだ!?」 「さ、沙羅!?」 追い討ちをかけるように、沙羅まで目を覚ましていた。周囲から質問責めされ、どうしようもなくなったまなみは、ごめんなさい!と叫ぶと、飛び上がり、一気にバイクに飛び乗ると、その場から逃げだした。 「どうしよう…母さんに怒られる…いや、もっとひどい目に…!」 すでに次元鬼族より、目の前の危機に対し恐怖を感じているまなみであった。 次回予告 「まなみです。なんてこと、第一話で世間に正体がばれちゃった! 母さんはやっぱり、微笑みながらお仕置きしようとするし、マスコミの人も 相変わらずしつこいし、当分静かな暮らしは送れそうにないなぁ… えぇ?剣士って私以外にもいるの!? 次回は『水と力のミニマム剣士』です!」
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攻略チャート Part1 プロローグ~最初の洞窟までプロローグ 最初の町 最初の洞窟 攻略チャート Part1 プロローグ~最初の洞窟まで プロローグ することを記述 最初の町 することを記述 注意したほうがいいことなどは この形で書くと目を引きます 入手アイテム 場所 あいてむ1 宝箱 あいてむ2×2 宝箱(隠し) 最初の洞窟 することを記述 強調したい場合に下線や太字にする。 両方も可能 BOSS ??? 名称 HP 備考 洞窟の主 400 最初のボス。回復を忘れなければ大丈夫 詳細はこちら 入手アイテム 場所 あいてむ1 宝箱 あいてむ2×2 宝箱(隠し) あいてむ3 ボスドロップ Part2へ
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作者:柏陽煉斗 タイトル:第一話/出会いは逃避行の中に ときに。ふと私は思うことがある。 こう、運命ってのはなんでいいのと悪いのを纏めて運んでくるのか、と。 そんなことを考えている私。只今絶賛ピンチ中っ! 荒い息。飛び散る汗。全身が沸騰しそうに熱くなる感覚。 「はぁ、は――はぁっ……んぐ……」 そうは言っても別段色っぽい睦言なんかじゃない。ありえない。というか、彼氏がそもそもいない。 閑話休題。 そんな私が何故こんな苦しい思いをしているかって。それは走ってるからだ。 それも全速力。ああ、人間、恐怖の淵に追い込まれると限界を突破できるんだな、と他愛もないことを考えられるあたり、まだ余裕は残っているのかもしれない。 「って、んなわけないでしょっ……!あー、もう!なんで私がこんなことにーっ!」 誰に言うでもなく叫ぶ私。あ、やばい、今ので息切れた。 朝夕のバイトと、元からの運動好きで結構体力があるはずの私の身体もついに限界を迎えたか、よろめいてしまって。 「っ、きゃっ!」 間抜けなことに自分の足に引っかかって地面に倒れてしまう。 それもこれも叫んだからだ、私の馬鹿。 悔やみながらも起き上がろうと足に力を込める。が、しかし。 「つ……」 鋭痛。どうやら捻ってしまったらしい。今の状況ではこれ以上ないピンチだ…… 後ろを振り返る。全力全開で駆け抜けたはずの道。そこには―― 無数、とは言わないが、たくさんの人影。月明かりに照らされる落ち窪んだ容貌はとても不気味。 よろよろと足を引き釣りながら駆けているはずなのに、意外なほどに早く私に殺到してくる人影。 ただの女子高生一人相手にとんでもない人数で迫ってくるのだ。これは私じゃなくても怖いに違いない。 虚ろな瞳、どれもこれも似たような表情の群体がいつしか私の周りを覆い尽くす。 「ひっ……そ、それ以上、近づくなぁ!」 やばい。……凄く怖い。冷静な振りして考えてたけど、これだけ囲まれたら助からない。 もしかして、ここでなぶり殺しにされて――考えた瞬間、怖気に全身が震えだしてしまう。 がたがたと震えながら、腕を振り回し、必死に抵抗をしている……あまりにも情けなく弱々しい姿。 そんな私に一際近づくリーマン風の男。抵抗。その胸を重いカバンで思いっきりぶん殴る。 一瞬、よろ、とバランスを崩し。 「いやっ!?」 崩しながら、殴ったカバン、その腕をぎち、と冷たくおぞましい手指でつかんでくる男。 「や、だ……放して、放してよ……!」 最早、いつもの威勢を保てず恐怖にがたがたと震えてしまう私に顔を近づけてくる男。 もう、だめだ。冷たい息が喉元にふきかかる絶望的な感覚にぎゅ、と眼を閉じて―― 「――Pfeil」 ちょっと低めのテノールボイス。そんな状況でもないのに、あ、なんかいい声だ、なんて思ってしまって―― ――夜闇を駆け抜ける光の弾丸。否、矢。 声に薄く眼を開いた私の眼に映ったのは今しがた私に近づいてきていた男が横合いに倒れている姿。よく見ると、その胸には眩い光が突き立っている。 ざわり。影が揺れる。 「Gemetzel――」 響く、声。それは私から少し離れた路地。街灯の下。 闇の中、十字を切る法衣姿の少年がいた。ざわ、ざわざわ――無表情な人影達がその少年を一斉に見つめる。 そのまま、私から離れていく人影達。標的を少年に代え、歩み寄っていく。 「――Es ist Heiliger pfeil」 だが、しかし。掌を虚ろな人影達に向ける少年。直後何も無い空間から一斉に現われる光。 それは先ほど見た矢。その量は数十。近寄る人影ども一人に一本ずつ当てても更に余りある程度の量。 弾幕の如しそれが一斉に放たれ、十数の人影を地に平伏させていく。 地を、人影を打ち抜く花火みたいな光の舞。それを放つ少年の顔にかかっていた長い黒髪が一房ふわりと揺れ、整った彫りの深い顔が露になって。 その幻想的かつどこか運命的なシュチュエーションに。 こう、なんだ。私の乙女心が激しくスパークしはじめちゃった訳ですよ。 多分、真っ赤に染まっている顔で、少年を見つめる私。 それに気づいたのか否か。私の方にゆっくりと歩み寄ってくる少年。 どきどきが高まり、少し潤んだ眼――さっきのが怖くて泣いてた訳じゃないんだからね!――で、じいと見つめてしまう。 間近。先ほど私に襲い掛かろうとした男の横あたりに立つ少年。 「……あんた、無事か?」 無愛想な声。ちょっとだけ落胆しながら、軽く頷いて。――そういえばこの子、日本語喋れるんだ、と何故か嬉しくなりつつ。 「ならよかった。……ったく、統括組織のあの嬢ちゃんは、もっと周りのことに気を払えってんだ。これだから月ヶ谷のオヤジに俺が呼ばれたりする羽目に……」 独り言をぶつぶつと呟くどこか不機嫌そうな少年。なんかこう。見た目美人なのに、口調がいただけないというか、似合わないというか。そんな感じだ。 「え、えと。その、助けてくれてありがとう」 「んぁ?ああ。まぁ、死ななくてよかったな」 そっけない台詞。なんかこう。さっきからずたずたにされてく乙女心。もっとこう、心配してくれてもいいんじゃないってのは我侭な台詞なんだろうか。 少しどんよりしながら脱力。やっぱりさっきまでので緊張してたんだろうか。顔を落とし、ぐったりと座り込む。 「んで、立てるか?まさか腰抜けたってんじゃないだろうな?」 「そ、そんな訳じゃないわよっ!ただちょっと足が――」 ちょっと怒り気味の台詞は最後まで言うことができなかった。 座りこんだ私をそのまま抱き上げるようにしながら飛び出す少年。そして、先ほどまで私が居た其処を陥没させるぐじゅり、潰れた拳。 いつの間にやら蘇った、最初にやられて転がっていたはずの男が、手から骨やらぐじゅぐじゅになった肉やらを見せながら立っている。 「ちっ……ったく。式具無しじゃあまともに殺すのも難渋かよ。てかタフだな、おい」 呆れたように肩をすくめ。またさっきの呪文みたいなものを呟き、虚空から光の矢を撃つ少年。あろうことかそれを腕で受け、更に見るに耐えない姿になる男。 一切の痛痒を感じていないかのように飛び掛ってくる男に舌打ちしながら少年はひょいひょい跳ねてよけ回る。 「ちぃ……重い荷物があると面倒だな……うおっ!」 少年が驚きの声を上げた理由は、その荷物とやらから――即ち私からの攻撃。顎をがぃん、と拳で突き上げる。 「なんだよ、いきなり」 「お、女の子に重いって言うなー!」 「……ああ、なるほど」 なんで外見よくて中身こんなにだめだめなんだこの子は! そんな暢気なやりとりの最中にもがんがん殴りかかってくる元気な男。 「しっかし、このままじゃきっちぃな……ってか、へばりそうだぜ……」 少年も疲れてきたのか、苦々しい声を出す。 「男なら根性で気張りなさいよ!」 「へばりそうになる原因から言われると疲れるんだぜ?」 顎に拳が伸びる。今度はかわされた。畜生。 「んーじゃ……ちょっとだけ我慢しててくれよ?びっくりするかもだが」 不穏な台詞を吐いて――あろうことか。男に向かって体当たりを仕掛ける少年。 驚きに声も出せないままに、距離がほぼゼロになる。 振り上げられた男の拳。飛び込んだばかりで対応しきれない少年の、その顔面に向かって拳が振り下ろされる。 起こるであろう惨劇に、私はぎゅう、とまた眼を閉じる。 「Schltz――」 そして、数瞬後。硬いもの同士がぶつかりあう、痛々しい音が響く。 それは、決して、人間の肉がぶつかり合った音ではなくて。 うっすらと瞳を見開き、そして、見る。男のぼろぼろになった腕が光で出来た壁のようなものに突き立っている光景を。 「って、えええええ!?」 「おう、貫かれずにすんだか。僥倖僥倖」 暢気に呟く少年は私の驚きなんか気にも止めずに、掌を男の心臓あたりに押し当てる。 「光、杭、んで心臓。弱くたって吸血の輩にゃあ、これが覿面だろう?」 直後、響く爆音。槍の如くなった光が男の背中から突き出して―― その肉体が砂のようになって消滅していく。見ると、他の倒れ伏した人影も姿を消し去っている。 「この魂に哀れみを。アーメン」 そう言いながら、私を抱えながら片手で十字を切る少年の顔は、本当の神父のようで。 やっぱり、外面だけは格好いいな、と不覚にも赤面してしまったのであった。 「……あー、やっと終わった」 そんな乙女な気分をぶち壊すかったるそうな台詞。 私を地面に降ろして……って、そういえば、今までこう、横抱きにされていたんだよな、とか、結構鍛えてるのかなとか思考に顔を上気させる私の横で大あくびする少年。 「統括組織の嬢ちゃんもそろそろ本丸潰した頃だろうし、ひとまず任務終了ってとこかねぇ……」 何か呟いた後、改めて私を見てくる少年。何故か悪戯っぽい顔になって―― 「で、今度こそ腰抜けたのか?」 「だから、違うって言ってるでしょー!」 アッパー。今度はあの壁みたいなのを張られた。畜生。 「悪い悪い。んで、痛めたのは足だったか?」 そう言って、捻った右足をさすられる。痛みに僅かに顔をゆがめてしまうのは止められなくて。 「――Es ist Heiliger wind」 また、呪文。当てられていた掌がぽぅ、と光を漏らして。靴ごと引っ張られた足を暖かく包み込んでくれる。なんか気持ちいいかも。 はふ、と息をついている間に、光は小さくなっていき…… 「ほい、これで大丈夫だろ?」 ぐりぐりと少し乱暴めに足を捻られる。それに抗議しようとして…… 「痛くない……」 不思議なことに、捻挫したことによる痛みや腫れがすっかり引いてしまっている。 「ならよし。んじゃ、気をつけて帰れよ」 「……へ?」 そう言って立ち上がって歩き出していく少年。その様子に唖然として固まってしまう私。 しばらくして漸く正気に戻った頃には、すでに視界から消え去った法衣。 重いって言ったことを反省させるとか、怪我どうやって治したのかとか、女を一人でこんな場所に置いてくのかとか、色々あったけど、何より。 「……名前くらい教えていきなさいよ、あの馬鹿男ー!」 夜闇を切り裂くは私の叫び声―― 結局、帰り着く頃には日が変わっていて。 親に怒られ、姉に冷やかされ、冷えたご飯を暖めて食べ、そして、風呂に入り眠りにつく。 眠りにつくはずだったのだが、事件への興奮と、少年への愚痴だのなんだの考えていたら結局夜を明かしてしまい。 最悪のコンディションで今ここ――学校の席、ホームルーム直前の時間に至る。 昨夜の少年にも負けない大欠伸。慌てて口を閉じて、ぐったりと机に身を預ける。 隣の女生徒が何か話しかけてくるようだが聞こえない。私は今眠いんだ。 断片断片で聞こえた他愛も無い話――昨夜、羽織とか言う同級生が行方不明になったとか、転入生が来るとか――をBGMに本格的な眠りにつこうとする私。 「ほら皆、静かにしてー 朝の連絡を済ませないといけないからね」 年若い男の声――担任の外国語教師だ――を聞いて、どうにか身を起こす。 行方不明事件について他いくつかの注意を述べた後、ふと、面白そうな笑顔になる。 「さて、最後に一点。転入生を紹介します」 あがるどよめき。私も驚いた、というか冬まっさかりなこの時期に転校? 「ほら、入ってください」 そして、扉が開かれる。こつこつと足音低く入ってくるのは、黒い長髪、白い容貌。女っぽくも見えるが、強いまなざしに彫りの深い顔。 先ほどの驚きが嘘のような、更なる驚き。紅くなる頬に高鳴る心臓は昨日の焼き直しか。 そこにいたのはまさしく昨夜の法衣姿の少年であった。 教室から黄色めな声が飛ぶところを見ると、こう、なんかどす黒いものが沸き立ってくる気がするが今の私は気にしない。少年の顔をじぃ、と見つめていると、ふと、少年がこちらに気づいたか顔を向けてくる。 「さて、自己紹介をしてください」 少年は、私に一瞬かったるそうな苦笑いを見せると、黒板に向き直り。 瀬布 黒兎 4文字を綺麗に書ききって。 「クロトとでも呼んでくれ。んじゃ、よろしく」 まったく顔に似合わない気だるげな声でそう言い放ったのであった。 ←戻る →進む 目次に戻る 小説一覧に戻る